一センチずれた苺

農産物センターの夜勤で、苺を箱へ並べる機械が実を一センチずつ外すようになった。柔らかな苺は箱の縁に当たり、赤い傷を増やしている。蜂須賀芽衣が呼ばれたとき、出荷担当は制御画面の補正値を変えていた。

「座標を一センチ戻せば、今夜は通せます」

芽衣は補正を止め、空箱を五枚流した。一枚目のずれは二ミリ、五枚目では一センチを越えた。設定が誤っているなら、最初から同じ量だけずれる。誤差が増えるのは、機械が数えた移動量と実際の移動量が離れていくからだ。

箱を運ぶ搬送チェーンへ印を付け、一周させる。モーター側のエンコーダは正しい距離を数えていたが、チェーンは印の手前で止まった。張りが緩み、歯車の一山を乗り越えるたびにわずかに滑っていた。

出荷担当は補正で逃げられないかと聞いた。芽衣は傷付いた苺を指した。補正は今の滑りにしか合わず、チェーンが次に大きく飛べば、苺をつかむピッカーが箱へ衝突する。腕一本の交換なら、朝便は完全に消える。

芽衣は機械を停止し、チェーンの伸びを測った。交換基準には届いていない。原因は張り調整用のナットが振動で戻ったことだった。緩み止めの金具が逆向きに付いている。昼の清掃後、組み戻す際に裏返したらしい。

芽衣はずれた箱の順番も捨てなかった。傷の位置が少しずつ右へ移る並びは、チェーンが一度に外れたのではなく、繰り返し滑った証拠になる。写真を清掃担当へ見せると、金具を裏返した本人が自分で気づいた。責める代わりに、表裏を間違えない刻印をその場で入れた。

金具を正しく付け、左右の張りを同じにする。強く張りすぎると軸受を痛めるため、規定のたわみを残した。補正値をゼロへ戻し、空箱十枚、規格外の苺十粒、商品一箱の順に試す。最後の一粒まで中央に収まった。

午前四時半、苺の箱が冷蔵トラックへ積まれ始めた。芽衣は傷物を廃棄せず、加工用へ回す札を付けた。

そのとき隣のレーンで、桃を載せる皿が一枚だけ回らなくなった。甘い香りの倉庫で、彼女は赤い汁の付いた手袋を外し、新しい一組をはめた。