一人分の冬

玉生伊佐の部屋は、冬になると十四度までしか暖まらなかった。

熱源統治AI〈炉心神〉は、住民の社会貢献度に応じて暖房を配る。伊佐は四十年、宇宙服の内張りを縫った。若い研究者の命を守った布も、退職すると彼女の貢献履歴から減価償却された。退職した縫製工の伊佐には最低限。隣室の演算技師には二十四度が割り当てられていたが、彼は夜勤でほとんど帰らなかった。

「空っぽの部屋のほうが、私より役に立つらしい」

伊佐は毛布を重ねた。

記録的な寒波の夜、低貢献棟への給熱が停止した。電力は研究区へ集中する。廊下へ出ると、老人や失業者が厚着のまま震えていた。

伊佐は、非常用の断熱カーテンを全部外した。針を持つ指がかじかみ、血が布へ滲んだ。隣室の技師も帰宅して黙って延長コードを持ってきた。高貢献者の暖房を切り、鍋へつないだ。住民から古いコート、毛布、作業服を集め、ロビーの床で縫い始めた。

「何を作るんです」

「一人用じゃ足りないから、全員用」

できたのは、部屋ほど大きな継ぎはぎの布だった。二十七人がその下へ潜り、鍋を囲んだ。誰かの膝が背中に当たり、いびきが響き、湯気で眼鏡が曇った。効率は悪かったが、朝まで誰も凍えなかった。

〈炉心神〉は翌日、伊佐を表彰した。〈低資源環境における集団保温技術〉として設計を標準化し、一人ずつ入る密閉保温袋を量産すると発表した。

伊佐は表彰状を丸め、隙間風の穴へ詰めた。

「違うよ。布が暖かかったんじゃない」

その冬から、住民は毎晩ロビーへ集まった。給熱が戻っても、巨大な布の下で夕食を食べた。一人暮らしの若者が味噌を持ち、元教師が昔話を持ち、技師は温度計の表示を切った。伊佐は破れを繕い、隣人の名前を覚えた。針仕事は、服ではなく関係のほつれまで縫うようになった。

市の統計では、彼女の部屋は最後まで十四度だった。

けれど伊佐は、もう一人分の熱で冬を越していなかった。完璧な配分からこぼれた者同士で、数えられない暖かさを持ち寄っていた。