一本遅いホーム

中央駅では、乗るはずだった列車を見送った者は、次の列車へ乗る前に後悔販売機を使う。切符か交通系カードの履歴を入れ、見送った列車の号車と扉番号を指定する。遅刻や運休は後悔にならない。誰かを理由に乗らなかった場合、その人が立っていた位置まで入力しなければならない。

東雲は二十二時十四分発の快速を、三番線で見送った。四号車二番扉には、転勤で町を出る恋人が立っていた。彼女は窓越しに「来ないで」と口を動かした。東雲は頷いた。遠距離を続ける約束も、別れる話もしていない。明日の朝、連絡すればいいと思った。

次の快速は二十二時三十二分。東雲は同じ列車に乗る予定だったわけではないが、販売機は彼のカードを赤く点滅させた。〈乗車意思を検出しました〉。彼自身が知らなかった意思まで、駅の機械は時刻表どおりに扱う。

画面へ「四号車・二番扉」と入力する。後悔欄に〈一緒に乗らなかった〉と打つと、〈結果〉として拒否された。

〈発車ベルで足を止めた〉〈原因不足〉

ホームには次の列車を待つ人が並び始めた。誰も東雲を急かさない。販売機を使っている人の前は、黄色い線一本分だけ空ける決まりだ。

彼女は最後に何と言ったのか。来ないで、ではなかったかもしれない。窓が反射し、声も聞こえなかった。東雲は彼女の右手が、扉の開閉ボタンの近くで二度動いたことを思い出した。手招きにも、別れの挨拶にも見えた。

〈二度目の手招きを別れの挨拶だと決めた〉

機械が履歴を受理し、次の快速への入場許可を出した。商品口から、行き先の印刷されていない硬券が一枚出る。

東雲は二十二時三十二分発にも乗らなかった。ホームのベンチで硬券を裏返すと、鋏の切れ込みが細長い時計の針になっていた。針は二十二時十四分を指したまま、その先に四号車二番扉の小さな銀色の取っ手をぶら下げていた。

終電後、駅員は東雲を追い出さず、硬券の取っ手へ遺失物札を結んだ。始発が入線すると、小さな取っ手だけが先に震えた。札の品名欄には「列車一両」と印字され、時刻欄の二十二時十四分だけが銀色の鋏跡でホーム側へ開いていた。