一杯無料の茶館
「一つの急須から最初の一杯だけ完璧に淹れられる? 二杯目が凡庸なら無能だ」
茶商組合の試験で、ピノは露店の端へ追いやられた。
【固有技能:《初杯》――一つの急須につき、最初に注ぐ一杯だけ、その茶葉の最良の味になる】
二杯目以降は普通。茶侯マゼルは「一人客しか相手にできぬ」と笑った。
春市で、外国の大茶商が高級茶を独占し、一杯銀貨一枚で売り始めた。町の茶館は客を奪われ、安い茶葉は倉庫で古くなる。ピノには店を借りる金もなかった。安茶の店主は値下げを重ねても客を呼べず、高級茶を買えない人々は水を飲んで通り過ぎる。味を知らない商品へ金を払う怖さが、価格以上の壁になっていた。ピノは値引きではなく、買って後悔する危険を無料にしようと考えた。味見は商品ではなく、信用への入口だった。
彼女は小さな急須を二十個並べた。最初の一杯は無料。香りを確かめた客には、同じ茶葉の袋、焼き菓子、持ち帰り用の湯筒を売る。一つの急須で大量に淹れず、少量ずつ新しく湯を注ぐ。試飲のたび《初杯》が、その茶葉で到達できる最高の味を客へ教えた。
無料目当ての客ばかり集まると組合は笑った。だが香りに引かれた者は、菓子を買い、家族用の茶葉を買った。高級茶一杯より安いのに、売上は一人当たり多い。さらに月初めに茶葉を届ける定期札を作ると、翌月の仕入れ代まで先に集まった。
外国商人は同じように無料茶を配った。大鍋で煮たため香りが飛び、客は一口で離れた。ピノの店では、試す量だけを新しく淹れ、在庫は密閉缶で小分けしている。無料なのは茶ではなく、選ぶ失敗をなくす一口だった。
夕方、倉庫に眠っていた安茶はすべて売り切れた。茶館を失いかけた店主たちも、ピノの小急須を並べ始める。
マゼルは最後の無料杯を飲み、銀貨を一枚置いた。
「これは無料です」
「味ではない。考え方への代金だ」
茶侯は組合の市場札をピノへ渡した。
「一杯しか売れぬ無能ではない。おまえは一杯を入口にして、その先の一月まで売った」