一枚の写真に怪物を留める

《写真配信のヒカリと無名カメラマン、戦力ゼロでは》

《瞬間獣はフレームの間だけ存在する》

《肉眼でもカメラでも見えない相手を撮れるわけない》

人気写真配信者・日向ヒカリの頬に、見えない爪痕が増えた。シャッターを切るたび、画像には誰もいない廊下だけが残る。同行する藍堂透は、祖父の形見だという古いフィルムカメラを三脚へ据えた。

「ヒカリさん、フラッシュを連続で。僕が止めるまで」

「撮れないものを、明るくする意味ある?」

「暗闇をなくすためじゃありません。時間に目盛りをつけます」

白い閃光が等間隔に弾ける。その合間だけ、二人の服が切り裂かれていった。

《瞬間獣は露光していない時間へ逃げてる》

《連写速度を上げるほど隙間が短くなって攻撃も速くなる》

《透のカメラ、シャッター開けっぱなし?》

透はフラッシュの間隔を耳で数えた。ヒカリが傷を負っても同じ周期を守っているからこそ、暗い隙間も等しい幅で並ぶ。彼女が作った時間の格子へ、古いカメラのシャッターを重ねる。透は長時間露光のレバーを、一度だけ下ろした。

最初の閃光から今までの光が、一枚のフィルムへ途切れず焼きつく。時間の隙間を渡っていた瞬間獣は、逃げ場を失って写真の中央に固定された。銀色の豹が現実の廊下にも浮かび、驚いて身をよじる。

ヒカリは最後のフラッシュを至近距離で焚いた。豹は光の粒へほどけ、完成した写真の中で眠る姿に変わる。

「撮ったんじゃなく、閉じ込めた?」

「一瞬ごとの写真では逃げられる。なら、配信が始まってからの時間を一枚にすればいい」

《フィルム検証、露光時間七分四十二秒に欠落フレームなし》

《ヒカリの連続光が時間軸を可視化、透が一本へ繋げた》

《二人の写真だから、誰にも見えなかった瞬間が残った》

ヒカリは傷ついた頬のまま笑い、現像された一枚を透と二人で持った。

「次の写真集、表紙はこれ。撮影者名は並べて載せるよ」

配信画面に公式の透かしが刻まれた。

【世界初撮影・未登録種《瞬間獣》――撮影者 日向ヒカリ/藍堂透】