一滴だけの恩赦

処刑人ブレシアの血には、死刑判決を洗い流す力がある。

囚人の額へ一滴垂らせば、鎖も記録も罪状も消え、その者は自由になる。ただし血を使うたび、ブレシアの感情が一つ水へ変わり、涙として流れ落ちる。失った感情は二度と戻らない。

これまでに恐怖、羞恥、嫉妬を失った。

四人目の囚人は、かつて婚約していた治療師カロンだった。疫病患者を無断で城外へ逃がした罪。彼が救った中には、領主が薬の実験に使っていた子供たちがいた。

「私には使わないで」とカロンは言った。「次に何が消えるか分からない」

「選べないのは、いつも同じ」

見届け台では領主が、処刑後に治療師の薬帳を焼くよう命じている。帳面には実験の証拠がある。カロンが生きて証言しなければ、子供たちは病死として片づけられる。

ブレシアは小刀で指を切った。

血の一滴が囚人の額へ落ちる。赤は透明な雫へ変わり、彼女の頬を伝った。

鎖がほどけ、罪状書が白紙になる。兵たちは誰を捕らえていたのか分からず道を空けた。カロンは薬帳を掲げ、群衆へ領主の実験を告げる。逃げようとした領主を、患者の家族たちが取り囲んだ。

勝ったのだ。

カロンがブレシアへ駆け寄り、両肩を掴んだ。

「何を失った?」

彼女は自分の胸を探った。恐ろしくない。恥ずかしくもない。彼が他の誰かを見ても嫉妬しない。それらは以前から失っている。

カロンの顔を見つめる。髪に白いものが増え、左頬には昔自分が縫った傷がある。彼が生きている。それは望んだはずのことだ。

だが、胸は静かだった。

「分からない」

カロンは抱きしめた。ブレシアは腕を上げ、礼儀として背に回す。温度は感じるのに、そこへ結びつく名前がない。

足元に落ちた涙だけが、淡い赤色で脈打っていた。カロンが拾おうとすると雫は石へ染み込み、二人で過ごした春の花の形を残した。

「愛を失ったんだ」と彼は呟いた。

ブレシアはその言葉の意味を知っていた。辞書のように、正確に。

「なら、あなたを救うには安いものだった」

そう答えた声は穏やかだった。カロンだけが泣き、彼女は自分がなぜその涙を拭いたのか、最後まで理解できなかった。