一番遅い朝食
一番遅い朝食は、卵が冷める前に客を殺した。
ホテルの最上階で、宿泊客がルームサービスのワゴンにもたれて死んでいた。銀の蓋の下には卵料理、トースト、コーヒー。室内時計は八時十一分で止まっていた。枕には就寝前用のチョコレートが置かれ、浴室の鏡には当日夕方の演奏会半券が貼りついていた。
客室係は、朝食を届けて廊下へ戻った直後、グラスの割れる音を聞いたという。遮光カーテンは閉じられ、ベッドは乱れていた。捜査員たちは、寝起きの客が朝食に混ぜられた毒を口にしたと考えた。
被害者と遺産を争っていた兄弟は、午前七時半から九時まで空港の保安区域にいた。搭乗記録もある。朝食を運んだ客室係には動機がないものの、食事へ触れられたのは彼だけだった。
ワゴンの銀蓋には客室係とは別の指紋があった。兄弟は以前この部屋を訪れた際のものだと言ったが、銀蓋は毎回洗浄される。廊下の花瓶からは、空港の免税店でだけ使われる包装紙の切れ端も見つかった。客室係は、兄弟に似た男をエレベーター前で見たが、「朝は空港にいた」と聞いて証言をためらっていた。
刑事は枕の上に、ホテル名入りの小さなチョコレートを見つけた。夜の就寝準備で置かれるものだ。浴室には、当日夕方に開かれた演奏会の半券が濡れて貼りついていた。客室係は、それは前日の券だろうと言った。
しかし半券の日付は当日で、開演は午後六時。被害者は終演後にホテルへ戻っている。ワゴンの伝票には「BREAKFAST」とだけあり、時刻は「20:05」。海外から着いた客の希望で、ホテルは時差調整用の朝食をいつでも提供していた。
室内時計の八時十一分は午前ではなく午後八時十一分。遮光カーテンは朝日を防ぐためでなく、街のネオンを嫌った被害者が閉めたものだった。
兄弟の空港記録は朝のアリバイにすぎない。午後七時四十六分、彼のカードで最上階のエレベーターが動いていた。
刑事が伝票を開くと、注文者署名の横にもう一つ、兄弟の筆跡で部屋番号が書き足されていた。
一番遅い朝食は寝坊した朝のものではない。夜を朝として暮らす客に近づくため、犯人が選んだ献立だった。