一脚ぶん広い会議室

オフィス家具営業の生方朔は、移転先の会議室へ椅子六十脚を納めるよう頼まれた。

「来週の取締役会に間に合えば、最安品でいい」

総務部長は競合の見積書を示した。朔の椅子は一脚千五百円高い。六十脚なら九万円の差になる。

朔は値下げせず、会議室に新聞紙を椅子の大きさに切って並べた。図面のモジュールでは横十脚、縦六列が入る。だが床の中央に電源口があり、三列目だけ脚が当たる。無理にずらすと通路が細くなった。

さらに入口で、車椅子を使う取締役がいると聞いた。総務の配置図には席が用意されていたが、そこへ行く動線は椅子を引いた瞬間に塞がる。

「六十脚入ります。ただし全員が座ったら、一人が出られません」

総務部長は黙った。

搬入経路の貨物用エレベーターも測ると、六脚を積んだ台車は扉を曲がれなかった。朔は一回五脚に減らし、組立前の脚部を先に上げる順番へ変えた。会議室に入る数だけでなく、そこまで運べる数も納期を決める。

朔は納品数を五十九脚へ減らした。最前列の一脚をなくし、その空間を車椅子席と避難通路に兼ねる。後列の椅子は軽い型に変えず、耐荷重の高い同一品にそろえた。体格で席を選ばせないためだった。

残る価格差は、肘掛けを全席から外すことで埋めた。会議は短時間で、肘掛けより横幅が重要だ。不要な付属品を減らせば、競合との差は二万円まで縮まった。

「一脚少ないのに、まだ高い」

「取締役会のたびに五十九脚を並べ直す人件費は下がります」

朔は床の電源口を避ける位置に小さな印を付け、設営担当へ写真を渡した。納品当日に考える手順を、前日に決めておく。

契約は五十九脚で成立した。取締役会の座席表にも、空いた一脚分が通路として描き直された。総務部長は余った予算で、入口の重い扉に開閉補助具を付けることにした。

納品確認が終わった夕方、朔の会社へ電話が入った。

「研修室に百二十脚。今度は詰められるだけ詰めたい」

朔は先方へ、椅子の数より先に非常口の位置を送ってほしいと頼んだ。