七分間の工場

家庭用ロボット企業「モノリスピン」への設備投資会議で、宮守川琴音は量産監査を請け負う技術会社の新人だった。月産一万台の組立工場が完成し、四十億円を入れれば即座に世界展開できるという。

創業者は現地映像を流した。長いラインをロボット掃除機が次々と流れ、作業員が検査印を押している。感染症対策を理由に、投資家の現地訪問は断られていた。

琴音は映像の右下にある電力計を見た。表示は12:43から始まり、七分後の12:50で画面が切り替わる。次の場面では、再び12:43へ戻っていた。

同じ七分間を角度だけ変えて繰り返している。

創業者は、編集時に時系列が入れ替わったと説明した。

琴音は製品箱の傷を示した。左上に三角形のへこみがある箱が、映像中に十一回流れてくる。ラインが一周する実演設備で、完成品を循環させていたのだ。

月産一万台の証拠とされた検査記録にも、連番000001から010000がある。だが印影は全件同じ濃さ、同じ傾きで、最初の一枚を複写した画像だった。実在する製造番号を物流会社へ照会すると、出荷済みは二百四十台だけ。

投資責任者は、試験ラインでも将来能力を推計できると言った。

琴音は工場賃貸契約を出した。借りているのは撮影日の一日、午前十時から午後三時まで。貸主の署名時刻も残っている。常設工場ではなかった。

監査会社の上司は、設備業界で仕事を続けたいなら言葉を選べと囁いた。

琴音は停止画面の12:43を指した。

「工場が動いたのは七分。投資資料では一か月です」

工場の貸主へ確認すると、ライン設備も撮影会社から一日だけ持ち込まれたものだった。電力使用量は一般家庭三軒分程度で、月産一万台の設備を動かせる値ではない。検査印の日付もすべて撮影日で、翌日の生産記録は一枚もなかった。

代表が四十億円の設備承認印を置いた。映像の箱はまた流れ始めたが、決裁だけは二周目へ進まなかった。