三分間の錬金術

 老錬金術師バルサドは、紙の容器へ湯を注ぐだけの料理を鼻で笑った。

「粉末のスープ、乾いた麺、刻まれた具。これを調理と呼ぶのか」

「三分待てば、カップ麺です」

 夜の共同研究所で、若い技師が蓋を閉じた。砂時計をひっくり返す。

 バルサドは何事にも工程を増やす。薬草は七度洗い、火力は十二段階で調整し、茶を一杯淹れるにも温度計を三本使う。弟子たちは技術を尊敬しているが、最近、彼の研究室で夜食を取る者はいなくなった。

「待つだけなど、怠惰だ」

「待っている間、何もしなくていいんです」

「三分も?」

 バルサドは落ち着かず、蓋の上へ金属匙を置き直し、砂時計の粒を数えた。途中で開けようとすると、技師に止められる。

「まだです。麺が戻りません」

「戻る、とは?」

「水分を吸って柔らかくなるんです」

 最後の砂が落ち、蓋を開ける。醤油と胡椒、乾燥葱の香りが白い湯気とともに立った。縮れていた麺はふくらみ、薄い肉と卵が表面に浮いている。

 バルサドは半信半疑で麺をすすった。柔らかいのに適度な弾力があり、濃いスープがよく絡む。完成した料理ほど繊細ではない。それでも夜中の冷えた腹へ、まっすぐ温度が落ちていく。

「この味を、誰が作っても同じにできるのか」

「だいたいは」

「火加減を知らぬ者でも?」

「湯と時計があれば」

 それは彼の美学と正反対だった。けれど隣の技師が、眠そうな顔で同じ麺を食べているのを見ると、悪くないと思えた。難しい技術を見せるためではなく、誰でも夜を越せるように作られた式なのだ。

 バルサドは研究台の上の未完成薬を布で覆った。

「今日はここまでにする」

「珍しいですね」

「三分待っても世界は崩れなかった。八時間でも、たぶん平気だ」

 空の容器には、葱が一片だけ残った。スープを飲み干すと、紙の底が軽く鳴る。

 研究所を出るころ、外は深夜の静けさに包まれていた。髭には醤油と胡椒の香りが残り、バルサドは久しぶりに、何も煮詰めないまま眠るための部屋へ帰った。