三本目の手羽先
叶谷修一は、チームのジャージを鞄の底へ押し込んでいた。
社会人フットサルの地域リーグで七年。半年前に膝を痛め、復帰戦でまた同じ場所を壊した。医師から競技を続けるなら手術が必要だと言われ、会社からは来月の大阪転勤を打診された。修一は転勤を受け、チームへは退団届をメールで送った。
明日の朝が最後の練習だが、行かないつもりだった。ジャージは宅配便で代表者へ返せばいい。動けない自分をコート脇に置くのも、仲間に気を遣わせるのも嫌だった。
引っ越せばこの店にも来られない。客は修一一人。手羽先の塩焼きを三本頼んだ。
網の上で皮の脂がぱちぱち弾け、粗挽き胡椒の香りが煙に混じる。焼けた手羽先は指で持てないほど熱く、皮を破ると透明な肉汁と白い湯気が出た。
「箸、使います?」
「手で食え」
店主は布巾を一枚置いた。
一本目はきれいに骨だけ残せた。二本目は肉が関節に残った。三本目は胡椒が多く、修一はむせた。
ずっと、最後くらい格好よく退くべきだと思っていた。迷惑をかけず、未練を見せず、次の場所へ行く。それが大人のやり方だと。
修一は代表者へのメールを開き、「明日の練習、見学に行く。ジャージは手渡しする」と送った。送別会は要らないとも書いたが、最後のボール拾いならできる。
膝が治るか、転勤先で何を始めるかは決まっていない。仲間の前で泣かない自信もない。それでも、箱に詰めた服だけを自分の代わりにはしない。
チームには、修一が復帰するまで背番号を空けておくと言う後輩がいる。その善意が重くて、退団届には怪我のことを二行しか書かなかった。明日の練習では、背番号を次の選手へ渡してほしいと自分から言う。空けておく約束より、使われる番号を見送るほうが痛いだろう。それでも、戻れない可能性を隠したまま仲間の時間まで止めたくはなかった。履き潰したシューズも、自分で持っていく。
三本目の骨を皿へ置く。指先には脂と胡椒の熱が残り、布巾で拭いても、香ばしい匂いだけは消えなかった。