三番目の紙

小田切泰雅は、閉校した中学校の配管点検に入った。二十五歳。男子トイレの三番個室だけ、紙が詰まるという報告が何年も続いている。

匿名掲示板の学校怪談スレッドには、卒業生の書き込みが残っていた。

《三番目の個室から仕切りの下へ紙が出てきても、切ってはいけない》

この地方では、病人の身代わりを紙人形に移し、長い紙帯で家の外へ引き出す祓いをした。帯を途中で切ると、身代わりと本人が半分ずつ残ると民俗資料にある。

泰雅が個室へ入ると、隣との隙間から細い白紙が伸びてきた。引いても端がなく、便器を一周して足首へ絡む。点検口を開けるには邪魔だったため、泰雅は工具のカッターで一度だけ紙を切った。

隣の個室で、子どもが「半分もらった」と笑った。

切れた紙の片方は床へ吸い込まれ、もう片方は泰雅の手首へ貼りついた。そこには学校名、学年、氏名が薄く印字されている。氏名は小田切泰雅。身体測定欄の下半身だけが空白だった。

作業カメラには、紙を切った瞬間、個室の床が左右へずれた様子が映っていた。左側には現在の校舎、右側には木造だった頃の同じトイレが続き、少年が切れた紙の下半分を巻き取っている。少年の顔は泰雅の小学生時代と同じだった。動画の音声解析は、カッター音を《出席者を二分》と文字起こししていた。

泰雅は紙を剥がし、点検を中止した。帰社すると、腰から下の感覚が時々途切れ、監視カメラでは上半身しか映らない。同僚は圧縮不良だと言った。

椅子から立つと、足音は半拍遅れて机の下から聞こえた。遅れた足音の方だけが階段を下り、泰雅の影は上半身の輪郭で壁に残った。

午後、事務所の複合機が勝手に動き、細長い紙を吐き出した。幼稚園から現在までの泰雅の記録が、切り取り線で上下に分かれている。最後の一枚は今撮られた写真で、下半分だけ白紙だった。

複合機の液晶へ表示された。

《原稿を一名分、切断しました》

《残り半分は三番個室で保管しています》

印刷終了音の後、机の下から子どもの声がした。

「上だけ返しに来て」