乗換駅で解散

水城瑠奈、楠木泰輔、藤堂沙和は、卒業旅行の帰路、同じ列車の向かい合わせ席に座っていた。大きな乗換駅で、それぞれ別の方面へ向かう。停車時間は七分だった。

瑠奈が時刻表を広げた。「私、北口。新幹線で東京」

泰輔は切符を見せた。「俺は西。地元まで普通列車」

沙和だけ切符を持っていなかった。

「沙和は?」と瑠奈。

「南口のバス」

「実家?」

「空港。来週、フィンランドに行く」

泰輔が眉を上げた。「旅行?」

「就職。現地のゲーム会社。昨日、承諾した」

瑠奈は時刻表を畳んだ。「国内メーカーの内定は?」

「断る」

「相談してよ」

「相談したら、止めるでしょ」

泰輔が「止めない」と言ったが、沙和は彼を見なかった。

列車が駅へ近づく。瑠奈は窓に映る三人を見ながら言った。「私は出版社。東京で編集者になる。たぶん忙しくて帰れない」

泰輔は膝の切符を指で撫でた。「俺は家業の葬儀屋。父さんが倒れたから、すぐ入る」

「音響の会社、受かってたよね」と沙和。

「音を出す仕事より、音を止める仕事になった」

車内放送が乗換案内を読み上げた。北、西、南。同じ駅名の中で、行き先だけが三つに割れた。大学では三人とも同じ定期券区間を使い、講義をさぼる日まで同じ改札を抜けた。今日初めて、それぞれの切符は色も大きさも違っていた。

「改札まで一緒に行く?」と泰輔。

「どの改札?」と沙和が聞き返した。

誰も答えられなかった。

「次に会うの、いつ?」と瑠奈。

「沙和が帰国したら」と泰輔。

沙和は小さく笑った。「帰国する前提なんだ」

列車が停まり、扉が開いた。三人はホームへ降り、七分間だけ同じ柱の下にいた。

瑠奈の発車ベルが先に鳴った。彼女は二人に抱きつかず、「じゃあ」とだけ言った。泰輔は西口へ、沙和は南口へ歩き始めた。

沙和が振り返った時、二人はもう人波に隠れていた。

待合室の丸テーブルには、三人で分けた菓子の空箱と、行き先を蛍光ペンで塗った時刻表が残った。北、西、南の線は駅の中心で一度だけ交わり、その上に瑠奈の空いた椅子が押し込まれていた。