九枚の耐火板
錬金術師クオンは、黄金を作れなかった。
代わりに、熱で割れにくい皿や、錆びにくい鍋や、匂いの移らない瓶を作った。王立錬金院はそれらを「台所仕事」と笑い、研究室ごと彼を辺境へ追い出した。
新しい土地のパン窯は立派だったが、火床が剥がれ、生地を置けば砂が底につく。クオンは初日、火床へ耐火板を九枚敷くことだけにした。
土、砕いた石英、古い陶器の粉。三つを量り、井戸水で練る。厚さを指一本に揃え、四角い型へ押し込む。隣家の牧童ガレが、一枚ごとに印をつけた。
「金にならない板を、九枚も?」
「金は食べられない」
日差しで乾かした板を弱火で焼き締め、窯床へ三列に並べる。最後の一枚だけ、角がわずかに高かった。クオンは削っては置き、粉を撒いて傾きを確かめた。九枚すべてが平らになると、白い粉はどこにも流れなかった。継ぎ目へ爪を当てても段差はない。
火を入れる。板は赤くなっても反らず、継ぎ目も開かない。
二人は粗い粉へ乳清を混ぜ、小さな生地を九個作った。一枚の板に一個ずつ載せる。焼け始めると、乳の甘い匂いが漂い、窯の奥で丸い影が揃って膨らんだ。
取り出したパンの底には砂一粒つかず、九つとも同じ狐色だった。ガレは一個を裏返し、宝石を見るように眺める。
「全部、当たりだ」
そこへ錬金院の監督官が来た。王の戴冠式に使う金杯の製造が失敗し、クオンへ黄金錬成をやり直せという。復帰状には、研究費を以前の三倍出すとあった。
クオンは書状を九枚目の板の脇へ置いた。熱で封蝋が柔らかくなったが、気にしなかった。
「金杯がなくても式はできる」
「王命だぞ」
「夕食がなければ、牧童は腹を空かせる」
彼は九個目のパンを割った。細かな気泡から湯気が立ち、底を指で弾けば澄んだ音がした。
金は作れなかった。だが、誰でも同じように焼ける火床を作った。
クオンはガレへ五個目を渡し、自分は四個目を取った。九枚の板の上に残った温かさは、王立錬金院のどんな称号より長く、二人の掌に留まった。