二人だけの校則
物集女佳苗と彼の交換日記には、三つの校則があった。
一、嘘を書かない。
二、「別に」で終わらせない。
三、直接聞けることは書かない。
作ったのは佳苗だった。彼が何を訊いても「別に」と答えるからだ。
校則はすぐ破られた。
――今日、怒ってる?
――直接聞ける。
――聞いたら別にって言った。
――それは校則二違反。
――では罰として購買のパン。
そんなやり取りが一年続いた。
二年の冬、日記に質問が書かれていた。
――好きな人ができたら、交換日記はやめる?
佳苗は三つ目の校則を指でなぞった。直接聞けることだ。けれど彼は、教室では一度もその話をしなかった。
返事を書かず、日記を返した。
次の日。
――回答拒否は何違反?
佳苗はまた返さなかった。
本当は、彼に好きな人ができたのだと思った。だから交換日記が邪魔になったのだ。訊けば答えを聞くことになる。日記をやめるより、その瞬間が怖かった。
三日目、赤い表紙は佳苗の机へ戻ってこなかった。
放課後、彼は中庭のベンチで日記を読んでいた。何も書かれていない頁を、何度もめくっている。
佳苗は隣へ座った。
「日記、返して」
「質問に答えたら」
「校則三違反」
「直接聞いた」
「今は私が聞いてない」
「じゃあ聞いて」
佳苗は膝の上で手を握った。
「好きな人、いるの」
彼は日記を閉じた。
「いる」
「交換日記、やめたい?」
「やめたくない」
「その人は嫌がらない?」
「本人が嫌なら」
佳苗は彼を見た。
彼もこちらを見ている。
言葉の意味が届くまで、チャイム一回分ほどかかった。
「それ、嘘じゃない?」
「校則一」
「別に、信じてないわけじゃ」
「校則二」
佳苗は笑い、同時に泣きそうになった。
「じゃあ、何て答えればいいの」
「日記に書けば」
「直接聞けることは書かない」
「校則を変える」
彼は表紙の裏を開き、三つの決まりの下へ四つ目を書いた。
――四、大事なことは、書いてから直接言う。
佳苗は日記を受け取り、新しい頁へ書いた。
――私も、好きな人がいる。
彼が読むのを待ってから、同じ言葉を声にした。
冬の中庭では、息が白くなった。日記の文字は消えず、声だけがすぐ空へほどけた。
翌日、二人は第五の校則を加えた。
――授業中に顔を見て笑わない。
それは一時間目で破られた。