二人ぶんの表札
郵便受けの名前シールが、右端から半分剥がれていた。
余命を告げられて帰宅した黒川映奈は、病院の封筒を抱えたまま、その端を指で押した。
この部屋を借りたのは恋人で、郵便受けには彼女の名字だけが貼ってある。映奈は一年半住んでいるのに、自分宛ての荷物には毎回「同居人」と補足を書いた。配達員に部屋を間違えられ、隣の人が小包を持ってきたことも二度ある。新しいシールを作ろうと言いながら、二人とも困っていなかったので、そのままになっていた。
病院からの封筒を抱えたまま、映奈は剥がれた端を押した。指を離すと、また浮く。夏の熱で糊が弱ったらしい。
部屋へ入り、靴箱の引き出しからラベル用の白いテープと油性ペンを出す。恋人は勤務中で、夕方まで戻らない。結果を電話で伝えることも考えたが、声ではうまく言えそうになかった。
映奈は食卓へテープを長く伸ばした。二つの名字を並べるには、今までの倍の幅がいる。名字と名字の間をどのくらい空けるか迷い、一度書いて捨てた。二枚目は片方が大きすぎた。三枚目で、ほぼ同じ大きさになった。余白も左右同じになるよう、定規を当てて端を切った。
恋人へ〈油性ペン、黒でよかったよね〉と送る。
〈表札? 赤は怖い〉
すぐに返事が来た。
〈急にどうしたの〉
映奈は〈剥がれてた〉とだけ打った。嘘ではない。
予備の透明テープを上から重ねれば雨にも強い。映奈はそれも同じ長さに切ってから、古いシールをゆっくり剥がす。長く貼られていた場所だけ、郵便受けの銀色が少し濃い。糊を消しゴムでこすり、濡れ布巾で拭く。新しいテープを貼るには、水気が消えるまで待たなければならない。
待つあいだ、映奈は玄関に座った。病院の封筒は膝の上で角が曲がっている。話す順番は決められないままだったが、名字の順番だけは決めた。五十音順にすれば、どちらが先でも意味を持たない。
郵便受けが乾く。映奈はテープの端を合わせ、中央から外へ親指で押した。右端に小さな皺が寄り、爪でのばす。
二つの名字が、同じ太さで銀色の扉に並んだ。映奈は最後の角を押しつけ、指を離した。