二件目の結婚式

 結婚式当日の控室で、花嫁の錦戸紗毬は新郎の雁金景周の手帳を見つけた。

十時 紗毬と挙式

十三時 別会場で挙式

十五時 指輪交換

十七時 新婦と写真

 紗毬は手帳を閉じ、景周を呼んだ。

「今日、何件結婚する予定?」

「何件って、一件だよ」

「十三時の挙式は?」

 景周の笑顔が止まった。

「それは仕事」

「結婚を仕事にしたの?」

「前からやってる」

「常習的に?」

「月に四、五回」

 介添人がそっと退出した。

「相手は毎回違うの」

「基本的には」

「指輪も交換する?」

「形だけ」

「写真も?」

「記録用だから」

「私は本物?」

「もちろん」

「みんなにそう言ってる?」

「言う必要がない」

「隠してるのね」

「守秘義務がある」

 紗毬はベールを外した。

「十三時の相手は誰」

「知らない。現場で会う」

「初対面で結婚?」

「珍しくない」

「珍しいわよ!」

 扉が開き、燕尾服の男性が顔を出した。

「蓬田さん、今日の二件目、牧師役じゃなくて新郎役に変更です」

 紗毬が振り向く。

 景周はブライダル会社の登録モデルだった。模擬挙式や広告撮影で、新郎役を務めている。今日も自分の結婚式の後、近隣会場のブライダルフェアへ出演する予定だった。

「月に四、五回」

「模擬挙式」

「相手は毎回違う」

「モデルさん」

「指輪は形だけ」

「貸し出し品」

「どうして私に言わなかったの」

「結婚式の日まで新郎役の仕事をしてるって、縁起が悪いかと思って」

「重婚疑惑より悪いことある?」

 景周は考えた。

「本物の式に遅刻すること」

「もう遅れてるわ」

 廊下から司会者が「新郎新婦がお互いの過去を受け入れ、まもなく入場します」と苦しい場つなぎをしていた。

「私の過去は何も問題ないのに」

「僕の職歴が濃すぎた」

「プロフィール映像に模擬挙式の回数を入れたら?」

「百八十七回」

「煩悩みたいな数字ね」

「今日で百八十八回」

「本物は別に数えて」

 その言葉どおり、紗毬の尋問で挙式は十二分遅れた。

 十三時の模擬挙式には間に合わなかった。会場には「新郎モデル都合により中止」の札が出た。

 後から訪れた紗毬は、その下へ一行だけ書き足した。

『本日の新郎は売約済みです』。