二枚目のラベル

午前二時、大学病院の検査室で、同じ患者番号の採血ラベルが二枚ずつ出始めた。

臨床検査技師の笠縫依子は、プリンターから伸びる白い帯を見て、すぐ用紙を引き抜いた。救急患者の検体が六本、搬入口で待っている。ラベルが余分なら捨てればよい、と同僚は言った。

「余分な一枚が別の採血管に貼られたら、結果が患者を間違える」

検査依頼は電子カルテからミドルウェアを通り、バーコードとして印刷される。今夜はプリンターの応答が遅く、受信確認が返らないたび、ミドルウェアが同じ依頼を再送していた。システム上は「未印刷」なのに、紙だけが二枚出ている。

依子は再送機能を止めた。ただし受付そのものは止めず、依頼番号を画面に表示して手書きの仮ラベルを一枚だけ作る。採血管は患者ごとに色の違うトレーへ置き、二人で氏名と生年月日を読み合わせた。速度は落ちるが、混ざらない流れを先に作った。

システム担当から「プリンターを再起動してください」と連絡が来た。依子は、印刷待ちの件数を確認するまで待たせた。再起動後に古い依頼がまとめて出れば、仮ラベルを貼った検体と二重になる。

待ち行列は十九件。依子は番号を控えてからプリンターを再起動し、出てきた十九枚を患者へ貼らず、照合用の封筒へ入れた。新規一件だけを試し、バーコードが一枚で出て、受信確認が戻ることを確かめる。

午前三時十分、通常運用へ戻った。依子は破棄箱のラベル枚数も数え、発行記録との差をゼロにした。余分な紙を捨てただけでは、どこかに三枚目が残っていない証明にならない。依子は仮ラベルの六本を正式ラベルへ貼り替え、検査結果が正しい患者へ返るところまで見届けた。

担当医から「早くしてくれ」と何度も電話が来ていた。最後の結果を送ると、その医師は一秒黙り、「ありがとう」と言った。

依子が二枚目のラベルを破棄箱へ入れた瞬間、救急搬入口のベルが鳴った。

今度は輸血前の緊急検体だった。

彼女は新しいトレーを出し、患者名を声にした。障害が終わっても、確認の回数だけは元に戻さなかった。