代役全員の顔を見せよう
《仮面の下、回ごとに別人なんだろ》
《体格も声も違う。何人で“烏丸絃”を演じてる?》
《今日は代役なしで戦ってみろよ》
烏丸絃は、配信開始と同時に白い仮面を外した。
少年にも老人にも聞こえた声の主は、静かな顔をした青年だった。監査端末へ指紋、虹彩、血液魔力紋を順に登録する。
生映像は鑑定局のサーバーにも複製され、仮面を外した瞬間から一度も視界を切らない。過去回の原本も比較用に開示済みだった。
「代役がいるように見えたなら、たぶん技ごとに身体の使い方を変えすぎた」
背後で百貌鬼が笑う。見た相手の姿と能力を完全に写し、本人より高い出力で使うボスだ。鬼は絃の顔を得たあと、過去配信に映った剣士、魔術師、巨漢、少年の姿へ次々と変わった。
疑われた「代役」全員の姿だった。
絃は両手を合わせ、一度だけ拍手した。
乾いた音と同時に、百貌鬼の変身が全部重なった。細い腕、巨大な肩、幼い脚、老いた背骨。矛盾した肉体が一つへ押し込まれ、鬼は自分のコピーに耐えられず内側から砕けた。
《過去の体格差、全部本人の筋肉制御だったのか》
《鬼が複製した生体情報、全形態でDNA一致》
《指紋も虹彩も今の本人と同じ》
《百貌鬼が“別人”と誤認できず、同一人物として同時再現した》
《代役疑惑をボスが生体検証してくれたぞ》
絃は仮面を拾い、また顔につけた。
「顔を隠していたのは、誰にでもなれるからじゃない。どの技のときも、同じ俺だと説明するのが面倒だったから」
生体鑑定局の公式アカウントが、公開データへ電子署名を付ける。
《全配信の音声骨格を再解析。発声法のみ変化》
《歩容、脈拍、魔力紋、全回一致》
《複数人説を撤回します》
《一人で百役じゃない。一人に百人分が入ってた》
画面下の疑惑タグが消え、代わりに青い認証名が現れた。
【烏丸絃――単独活動個体として本人確認完了】
その瞬間、切り抜き動画の題名が更新される。
『最強配信者の代役を暴く』から、『百貌鬼でも一人にしか数えられなかった男』へ。