会議を三秒で終わらせる新人
粟生田鉄平がオンライン会議で初めて発言した時、画面が一斉に止まった。
「結論から申し上げます」
三秒後、接続が切れた。
翌日、部長が肩を叩いた。
「君の一言で、二時間の会議が終わった」
鉄平は思った。自分には議論を終わらせる圧がある。
次の会議でも、
「論点は一つです」
と言った瞬間、全員の映像が消えた。
同僚が感心する。
「また終わらせた」
「無駄を許さない性格だから」
「何を言う予定だった?」
「そこまで言う必要がなくなった」
「発言前に終わってますけど」
「最強の結論は、口に出す前に伝わる」
噂は社内へ広がった。予定表には、難航案件ほど彼の名が先に入れられた。
長引く会議には鉄平が呼ばれる。
「予算案がまとまりません」
「私が入りましょう」
入室して三秒。
接続終了。
「労使協議が膠着しています」
「任せてください」
三秒。
接続終了。
役員は〈会議終了請負人〉という肩書きを提案した。
「年間何時間削減できる?」
「私が全会議へ出れば、ほぼゼロに」
「会社から会議が消える!」
「意思決定は?」
「速さの中にあります」
「内容は?」
「後から追いつく」
「革新的だ」
外部コンサルタントまで視察に来た。
「手法を体系化したい」
鉄平は低い声で答えた。
「まず空気を読む」
「次に?」
「最初の三秒で支配する」
「視線は?」
「カメラの奥へ」
「言葉は?」
「結論から」
コンサルタントは夢中でメモした。
公開実演として、全国支社長会議が開かれた。百二十人が接続する。
社長が宣言する。
「鉄平君、会議を最短でまとめてくれ」
「承知しました。結論から申し上げます」
三秒。
本社会議室だけが切れ、地方支社の会議はそのまま続いた。
情報システム担当者が机の下へ潜る。
「原因、分かりました。粟生田さんの椅子の脚がLANケーブルを踏んでいます。前へ身を乗り出すたび、コネクターが抜けます」
鉄平は椅子を見た。
「では私の圧では?」
「物理的な圧です」
会議終了請負人は、ケーブルカバー設置後、ただの参加者へ戻った。