余った歯車が正解

「図面どおり、すべての歯車を組み込め」

 機巧学院の実技試験台に、十二枚の真鍮歯車が並んでいた。最も小さい一枚だけ、縁に黒い点がある。

 前の人生のテオバルトは命令どおり十二枚すべてを組んだ。装置は三秒で焼きつき、失格。手順を間違えたと責められた。だが修理工として二十年働いた後、同型機を分解して知った。必要なのは十一枚。黒点の歯車は回転比を狂わせるため混ぜられた余剰部品だった。

 試験官が腕を組む。

「一枚でも余せば未完成とみなす」

 前と同じ念押し。

 前のテオバルトは「全部使います」と答えた。

 今度は黒点の歯車をつまみ、台の外へ置いた。

「十一枚で完成です」

「命令が聞こえなかったか」

「聞こえました。ですが、機械は命令では回りません」

 周囲の受験生が笑う。彼らの装置には十二枚目がすでに入っている。

 テオバルトは軸受けへ油を一滴、大小の歯を三対、最後に逃がし輪を噛ませた。未来で何千台も直した指は迷わない。

 試験官が黒点の歯車を拾い、無理やり差し込もうとする。

「これも部品だ」

「では歯数を数えてください。十三歯です。図面の回転比に十三は存在しない」

 試験官の手が止まる。

 学院長席の老人が身を乗り出した。

「起動しなさい」

 テオバルトはレバーを倒す。十一枚の歯車が静かに回り、銀の鳥が翼を開いた。羽音すら滑らかだ。

 隣の台では、十二枚目を入れた装置が次々と煙を上げる。前の人生と同じ焼ける臭い。テオバルトは自分の装置を眺めるだけでなく、隣の受験生の非常栓も引いて火傷を防いだ。だが今度、彼の鳥だけは止まらない。

 銀の鳥は軽やかに試験室を一周し、黒点の歯車をくちばしで拾った。それを不良品箱へ落とす。

 学院長が声を上げて笑った。

「図面を疑い、命令を越え、機械に従った。これが技師だ」

 採点機の針が百を越え、目盛りの外で止まる。

【特級合格】

 試験官が言うはずだった「不合格だ」は来なかった。

 代わりに銀の鳥がテオバルトの肩で、入学鐘と同じ音を鳴らした。