余白という名前

生徒会室の鍵を返すまで、あと十七分あった。

仕事は全部終わっていた。

書類は棚へ戻し、コピー用紙を補充し、明日の会議資料も机に並べた。会長と書記の二人だけが、用もないのに向かい合って座っている。

「何か議題ある?」

書記が訊いた。

「ない」

「十七分もある」

「早く返せば」

「先生に、五時半まで使いますって言った」

「予定変更」

「会長なのに計画性がない」

会長はホワイトボードへ『臨時会議』と書いた。

議題一――余ったホチキスの針をどうするか。

「置いとく」

「可決」

議題二――窓際の観葉植物に名前をつけるか。

「いらない」

「反対一、賛成一」

「誰が賛成」

「私」

「二人しかいないから否決」

「同数は継続審議」

くだらない議題が増えた。

消しゴムの小さくなった順。廊下で一番よく滑る場所。購買のコロッケパンにキャベツは必要か。

時計は五時二十一分。

書記が急に黙った。

「次の議題」

会長が促す。

「放課後を延長できるか」

「できない」

「会長権限で」

「学校の時間割は生徒会の管轄外」

「じゃあ、ここに残る理由を増やせるか」

「仕事なら」

「仕事じゃなくて」

窓の外で、部活動を終えた生徒が校門へ流れていく。

二人は半年間、毎日この部屋に残った。文化祭予算でもめ、目安箱のいたずらを読み、暖房の壊れた冬は同じ膝掛けを使った。仕事が終われば、会う理由も減る。

会長はホワイトボードへ書いた。

議題四十二――明日も十七分余らせる。

「賛成」

「理由は」

「観葉植物の名前を決める」

「それ、継続審議だった」

「じゃあ正式に」

時計は五時二十九分。

書記が植物を見た。葉の先が一枚だけ茶色い。

「『余白』」

「名前?」

「仕事が終わったあとに残るから」

「植物にしては堅い」

「会長案は」

「十七」

「犬みたい」

「じゃあ余白で」

五時半、二人は鍵を返した。

翌日も仕事は予定より早く終わった。

ホワイトボードの隅には、前日の議事録が残っている。

『放課後の延長――否決。

 会う理由の追加――全会一致で可決。』

卒業まで、観葉植物は枯れなかった。

二人が覚えているのは、忙しかった会議ではなく、何もすることがなくなってから始まった十七分だった。