借金を消す青い封筒
債務相談所《リセットライフ》の代表、久世匠馬は、借金に苦しむ人へこう囁いた。
「返済は今日から止めてください。毎月の支払額を私に預ければ、債権者と交渉してゼロにします」
実際には一円も返済せず、預かり金を使い込んでいた。依頼人は返済が進んでいると信じるうちに延滞金を重ね、家まで差し押さえられる。久世は相談所の広告で「救済実績九十九パーセント」と笑い、失敗した客の電話番号を着信拒否にした。相談員の莉緒が督促状の山を見つけると、久世は青い封筒を彼女の机へ押し込んだ。
「全部、お前が送金を忘れたことにする。泣いて謝れば、客は若い女を責める」
その場へ、工場を解雇された男性が最後の十万円を持ってきた。小学生の娘には「これで家を追い出されない」と約束してきたという。久世は大きく頷き、救済成功者の写真が並ぶ壁の前へ座らせた。その写真はすべて素材サイトから買ったモデルで、裏には注文番号のシールが貼られたままだった。久世は笑顔で受け取り、《債権者への代理返済金》と領収書に書いて署名する。
「これで来月には督促が止まります」
男性が帰ると、久世は現金を自分の財布へ入れた。
「今夜の接待に使う。帳簿は寄付金に変えろ」
莉緒は帳簿を変えず、青い封筒もそのまま置いた。
翌週、弁護士会と警察の合同調査が入る。久世は、莉緒が顧客の金を盗み、偽の領収書を発行したと話した。
調査官は領収書の管理番号を照合する。発行端末は久世の指紋認証で開かれ、署名時の映像も保存されていた。
久世は現金を受け取っただけで、使途は知らないと言う。
すると男性が、相談所の案内アプリを開いた。契約中は通話を自動保存する機能を、久世自身が「安心の証拠」と宣伝していたのだ。
――今夜の接待に使う。
――帳簿は寄付金に変えろ。
青い封筒の中には、返済されなかった全顧客の督促状が、久世の受領印つきで入っていた。
弁護士会の代表が登録証を回収し、刑事が令状を読み上げる。
「久世匠馬。預かり金詐取の容疑で逮捕します」