値切る前に値上がりした市場

隊商参謀ウェルタスが追放された翌朝、商隊長パルゴンは香辛料市場へ入り、大声で宣言した。

「胡椒を百樽買う! 一番安い店はどこだ!」

市場中の店主が顔を見合わせた。

最初の店は昨日の二倍を提示した。隣はさらに一割高く、その隣は「残りわずか」と札を掛け替えた。昼には百樽分の胡椒が倉庫から消え、買えたのは十二樽だけだった。

店主たちは商隊が必ず大量に必要だと知ったため、互いに値下げする理由がなくなったのだ。

「市場が結託した!」

パルゴンは怒った。

昨日までウェルタスは、三人の買い手を別々の入口から入れ、胡椒、染料、薬草を少量ずつ尋ねさせていた。必要量を隠し、売れ残りの多い店から静かに契約する。彼が作る訪問順は、値切り文句ではなく相手へ渡す情報の量を調整していた。

派手な交渉をしたいパルゴンは、それを臆病な小細工と笑った。

商隊には三日後までに胡椒百樽を納める契約があった。不足分を他都市から取り寄せれば輸送費で利益が消え、断れば違約金で馬車まで売ることになる。値段を一度上げた店主たちは、困るほどさらに高くなると知り、閉市まで一枚も値札を下げなかった。

パルゴンはウェルタスの訪問表を見つけたが、店名の横には価格ではなく「話好き」「在庫を隠す」「夕刻に弱い」と書かれていた。彼は商品ではなく、売り手が情報を漏らす順番を読んでいた。

同じ時刻、ウェルタスは農村共同組合のため、冬布を買い付けていた。

最初の店では針を、二軒目では糸を、三軒目で少量の布を買う。閉市前、売れ残りを抱えた布商が向こうから値を下げた。必要な二百反を予算の七割で揃え、余った金で子ども用の靴まで買えた。

組合長シーメルは、彼へ購買参謀の帳板を渡した。

「安くしろと叫ばず、相手が安く売りたい時刻を作ったのね」

夕方、パルゴンの使者が来た。胡椒相場を戻せば利益の半分を与える、隊商へ復帰せよと契約書を差し出す。

ウェルタスは署名欄を見ず、追放通知を重ねた。

「旧隊商との参謀契約は、昨日の解任をもって終了しています」