停電より高い発電機

桐霞野玲梧の倉庫から、非常用発電機が消えた。

災害時に診療所へ貸し出すため整備していた大型機で、友人の竜ヶ崎森玲二が「野外フェスに一日貸して」と頼んでいた。

「使わない週末なんだから無料でいいだろ。友達のイベントを応援する気がないのか」

玲梧は、医療用に予約されており、操作資格も必要だと断った。

それでも玲二は倉庫の窓を開け、台車で持ち出した。

フェス会場では、発電機一台から照明、音響、調理器具へ無理に電力を分けた。さらに指定外の燃料を入れ、過負荷警告をテープで覆った。午後、内部が損傷し、会場全体が停電。冷蔵車の食品は廃棄され、ステージ機材も一部壊れた。

玲二は玲梧へ電話した。

「古い機械が勝手に止まった。イベントの損害はそっちの責任だ。新品を買ってくれたら、今回のことは水に流す」

玲梧は遠隔保守記録を開いた。

発電量、過負荷、燃料センサー、警告解除。すべて秒単位で保存されていた。玲二は停止命令を十七回無視し、「所有者が保証する」と会場へ説明していた。貸出契約書には玲梧の署名を偽造している。

発電機の交換費は四百万円。だが翌週、台風で停電した診療所へ別機を緊急輸送する必要があり、その費用も発生した。フェス側は食品廃棄、機材修理、払い戻しの損害を玲二へ請求するという。

「友達の機械を借りただけで、何千万も払えるわけない」と玲二は開き直った。

「借りたのではなく、盗んで仕事に使い、壊したんだ」

フェスの主催会社は、玲二が発電機使用料として三十万円を受け取っていた記録を提出した。無償で借りた物を、有料で又貸ししていたのだ。

玲二はイベント会社を解雇され、報酬と預金を損害へ充当された。残額については、発電機本体、診療所の代替輸送、フェス損害を分けて長期返済する合意が成立した。

台風の夜、代替発電機が診療所の照明を点け、玲二の偽造貸出書が証拠保全された瞬間、無料の電気で儲けるつもりだった男には、停電より長く消えない請求だけが灯った。