全軍を操る虫を駆除する

害虫取りヴァシラは、兵士の前で虫籠を抱えていた。

軍の麦畑から幼虫を拾っても、補給将校は「指で虫を潰すだけ」と笑った。農薬を撒けば早いと言い、土も水もまとめて毒にした。ヴァシラが反対すると、戦えない職業が軍略を語るなと追放された。

彼女の技能は、畑一枚にしか届かないと考えられていた。

【一種防除:指定した畑の作物を食害する虫一種を、畑の外の器へ集める。虫の数と姿は問わない】

決戦の日、王国軍と敵軍が同時に狂った。

兵士の目が赤く染まり、味方同士で斬り合い始める。魔王軍の参謀が両軍へ《服従虫》を植え、最後に生き残った兵を自分の軍へする計画だった。虫は肉体を持たず、命令の形で脳へ潜るため、治癒魔法でも取り出せない。

参謀は高台から笑った。

「人間はよく育った作物だ。勇気を食わせてもらう」

その言葉を、ヴァシラは聞き逃さなかった。

戦場は参謀自身が種を蒔き、兵を育てたと称する一枚の畑。食われている作物は、人々の意思だった。

ヴァシラは空の虫籠を地面へ置き、服従虫一種を指定した。

技能を使う。

赤い光が、斬り合う兵士の耳や目から細い糸となって抜けた。王国兵からも敵兵からも、命令に縛られていた虫が一斉に虫籠へ飛び込む。姿のないはずの呪いは、籠の中で黒い幼虫となってうごめいた。

正気に戻った兵たちは剣を止める。

最後に、参謀の額から人の腕ほどある女王虫が引きずり出された。全ての命令を産んでいた本体だ。参謀は自分の声を失い、口を動かしても誰一人従わない。

ヴァシラが籠の蓋を閉じると、両軍の兵は同時に高台を見上げた。次に誰を敵とするかは、命令ではなく自分たちで決められた。

王国兵と敵兵は互いの傷を見て、同じ虫に食われていたことを知った。武器を下ろした者から高台を囲み、参謀を逃がさない輪を作る。ヴァシラは虫籠を補給将校へ預けず、自分で封印庫へ運び、毒農薬で荒れた畑を直す費用まで戦利品から確保した。

《職業が【害虫取り】から【万命除厄農聖】へ書き換わりました》