六を受け取り九にする
境野睦樹は自分の八を細江奈津へ渡し、彼女の六を受け取ると、カードを半回転させて卓へ置いた。
六は九になった。カードの向きを示す印は、どこにもなかった。裏面の紋章まで点対称で、どちらを上にしても同じ図柄に見える。
角倉慧が七のカードを握り、思わず立ち上がる。
「そんなもの、向きを変えただけだ!」
規則は一行だった。
〈全員が一度カードを交換した後、終了時に表面へ見える数字が最大の者を解放する〉
開始時、睦樹は八、奈津は六、慧は七。普通なら八を持つ睦樹が有利だが、全員に交換義務がある。睦樹が八を守ろうとすれば、奈津と慧は互いの札を替え、最後に残った彼を規則違反へ追い込むつもりだった。奈津は喜んで六と八を替えた。彼女は最高札を手に入れたと思った。
しかし六の書体には上下を示す線も、カードの向きを定める印もない。百八十度回せば九に読める。
『印刷時の数字は六です』
「規則は印刷データを比較するとは言っていない。終了時に表面へ見える数字」
『正位置で読むのが常識です』
「正位置を決める記号がない」
残り一分。慧は奈津へ七と八の交換を申し込む。奈津はすでに交換済みだが、慧の義務を満たすため相手になることは禁じられていない。二人が交換し、慧が八、奈津が七となる。
睦樹は九に見えるカードへ透明な重しを置いた。奈津が向きを戻そうと手を伸ばすが、他人のカードへの接触警告が鳴る。
終了ベル。天井カメラが三枚を画像認識する。
九。八。七。
〈最大表示、九。勝者、境野睦樹〉
奈津が唇を噛む。
「最初から私の六を狙っていたの?」
「八より価値が低いと思って、必ず交換に応じるからね」
睦樹の首輪が外れる。主催者は画像認識を手動で六へ修正しようとしたが、判定ログには「9」と保存済みだった。
「数字はカードの中に固定されているんじゃない。読む向きで変わる」
睦樹は出口へ向かい、最後にカードをもう一度回した。九は六へ戻ったが、勝利だけは戻らなかった。正しい向きを決める権利も、判定が終われば主催者には残されていなかった。