六畳間の誕生日
商店街の貸し和室「まどい」で、土曜の六畳間が二重予約になっていた。
十三時から、私は友人の誕生日会。もう一件は「唐橋房江 法要後休憩」。管理人の岩室さんは、八畳間へ移れないか双方に尋ねたが、そちらは階段の上で、杖をつく房江さんには難しい。
私たちは飾りつけを始める前だった。予約に関わったのは岩室さん、房江さん、誕生日を迎える友人の七瀬乃梨。けれど乃梨はまだ来ていない。
三つの手掛かりが、六畳間を譲れない理由をつないだ。房江さんの予約人数は一人なのに、湯呑みは五客。押し入れには、私たちが注文したはずの苺のケーキ。そして房江さんの風呂敷から、乃梨が子どもの頃に通っていた商店街のスタンプ帳がのぞいていた。
「房江さん、乃梨のお祖母さまですね」
彼女はいたずらが見つかったように笑った。
乃梨は両親の転勤が多く、小学生の三年間だけ祖母の家から学校へ通った。けれど進学後は忙しく、祖母の誕生日にも電話だけ。今日が自分の誕生日だから、皆に祝われるのが申し訳ないと言っていた。
房江さんは、それを商店街の菓子店で偶然聞いた。ならば今年くらいは、孫に「祝われる側」を遠慮させたくない。自分の名で同じ部屋を予約し、法要という理由なら乃梨も会いに来ると思ったのだ。
苺のケーキは房江さんが注文し直したもの。湯呑み五客は私たち全員の分。岩室さんは事情を知り、予約を消さずに残していた。
そこへ乃梨が到着し、祖母の顔を見るなり立ち止まった。
「おばあちゃん、今日、法事じゃないの?」
「昔の遠慮を供養する日です」
房江さんはスタンプ帳を開いた。最後の一枠だけ空いている。商店街を一周すれば、景品は小さなホールケーキだった。
私たちは飾りを半分だけ広げ、残りの時間で五つの店を回った。六畳間へ戻ると、苺のケーキが二つ並んだ。
乃梨はろうそくを一本ずつ祖母と分けた。
「来年は、最初から二人分で予約しようね」
房江さんは苺をひと口食べた。
「それなら、法事とは書きませんよ」