六里先まで四度

月白病の血清は、冷えたまま運ばなければ青色を保てない。

王都で作った十本を六里先の鉱山診療所へ送るたび、氷は途中で溶け、血清は茶色く濁った。魔石冷蔵箱は王家専用。三便の失敗で、運搬係の雁屋巽は「歩くのが遅い」と処罰されかけた。

巽は速い馬を求めなかった。

木箱を一回り大きい箱へ入れ、隙間へ乾いた麦藁を拳二つ分詰めた。血清と氷を内箱へ収め、蓋にも藁を重ねる。外箱は白布で包み、途中で一度も開けないと決めた。

「藁で冷えるなら、冬は暖炉が要らん」

主任医師の嘲笑を背に、巽は正午の街道へ出た。

比較のため、従来箱も同じ荷車へ載せる。三里地点で従来箱から水が滴り始めた。六里を走り終えた夕刻、従来箱の氷は消え、血清は薄茶色だった。

巽の外箱を開ける。麦藁は乾いたまま。内箱の氷は半分以上残り、温度管の液は四度の線を指していた。十本すべてが澄んだ青色を保っている。

巽は二つの箱に入れた氷の残量も量った。従来箱は零、藁箱は出発時の六割。荷車の速度も通った道も同じで、違うのは内箱の周囲に動かない空気を抱えたことだけだった。外の熱気に触れた白布は温かいのに、内箱の蓋には冷たい露が残っている。

二便目では正午より暑い午後に出発したが、到着時は五度。三便目は雨で一刻遅れ、それでも六度だった。速い御者を選ばなくても、箱が冷たさを守るため輸送の余裕が生まれた。

廃棄した三便三十本の価格は金貨九十枚。藁箱一つは銀貨四枚。主任医師が責めていた巽の歩みではなく、裸同然だった箱のほうが損失の原因だった。同じ御者、同じ六里でも、届いた薬の価値だけが金貨九十枚ぶん変わった。

診療所の医師が一本を患者へ打つと、荒かった呼吸が静まった。廃棄本数は十から零。輸送費は魔石箱見積もりの二十分の一だった。

主任医師は「箱を開けなかったからだ」と言い訳したが、それこそ巽が決めた運び方だった。

鉱山主は青い十本を薬棚へ並べ、木箱五十個の注文書へ印を押した。

「血清だけでなく乳薬と眼薬も運ぶ。低温輸送隊を作る。隊長は巽、お前だ」