凍った王都を橇で曳く

雪橇引きナキュラは、冬が終われば失業する女だった。

北境では薪や病人を橇へ載せて運ぶが、雪のない王都では車輪の方が速い。南方出身の将軍は彼女の木橇を見て、「板を引きずるだけの原始職」と兵站隊から外した。

技能も雪国でしか使えない。

【雪上牽送:雪または氷の上にある荷一件を、橇の進路へ滑らせる。接地面が一続きなら分割しない】

北の氷王が攻めてきた日、王都全体が雪国になった。

氷王は城壁へ杖を向け、石畳も水路も家の土台も一枚の氷へ変えた。続いて山脈ほどの氷塊を西から滑らせる。王都は凍って動けず、十分後には氷塊に押し潰される。

火炎魔術は市民ごと焼くため使えない。将軍は城門だけを捨てて王城へ籠もり、下町を盾にしようとした。

ナキュラは兵站倉庫から自分の橇を取り戻した。細い曳き綱を王都東門の蝶番へ結ぶ。

「薪一束も載せていないぞ」

将軍が嘲った。

「載っています。王都は今、全部同じ氷の上です」

凍った街路は家々の基礎までつながっている。城も下町も市場も、一続きの接地面に載った一件の荷だった。

ナキュラは橇の先を東の平原へ向け、綱を一度引いた。

最初に鐘楼が揺れ、次に城壁が軋んだ。だが崩れない。王都全体が配置を保ったまま氷上を滑り始めた。食卓の皿も病院の薬瓶も倒れず、広場の人々だけが景色の方へ流れていくのを見た。

街は東へ五百歩移動し、ぴたりと止まった。

直後、山脈ほどの氷塊が元の場所を通過した。空になった王都跡だけを砕き、その勢いで氷王の陣まで押し流す。

将軍が籠もった王城も市民と同じ荷だったため、勝手に置き去りにはならなかった。窓から転げ出た彼の前で、下町の人々が先に歓声を上げた。

氷王の軍旗が雪崩の向こうへ消えると、王都の氷だけが春のように溶け始めた。ナキュラの木橇は東門に結ばれたまま、一本の綱で城と下町を同じ荷としてつないでいる。将軍が先に解けと命じても、誰一人その綱へ手を掛けなかった。

《職業が【雪橇引き】から【白界牽送王】へ書き換わりました》