前から二番目の革命
彼女はいつも、教室のいちばん後ろにいた。
席替えで前を引いても誰かと交換し、窓際の最後列へ移る。背が高いから、と言えば誰も疑わなかった。
今回、先生が交換を禁止した。
彼女の番号は、教卓の前から二番目。僕はその後ろだった。
「終わった」
机を運びながら彼女がつぶやいた。
「先生に近いだけだろ」
「近いのが嫌」
授業が始まると理由が分かった。
彼女は答えを知っているのに、当てられると声が出ない。後ろの席なら前の人に隠れられた。前から二番目では、先生の視線を避けられない。
最初の一週間、彼女は何度も「分かりません」と言った。ノートには正しい答えが書いてあるのに。
「紙で答えれば?」
放課後、僕は小さなカードを作った。表に丸、裏に三角。選択問題なら、カードを机に置くだけで答えられる。
「子どもみたい」
「口で言わなくていい」
翌日の英語で、先生が二択の質問をした。彼女は迷い、丸のカードを置いた。
先生は一瞬驚いたが、「正解」とだけ言った。
次は三択。僕はカードに数字を書き足した。彼女は二を出した。また正解。
教室の誰も笑わなかった。
一週間後、彼女はカードを置きながら、小さく「二番」と言った。声は前の席までしか届かなかった。それでも先生は聞き取り、うなずいた。
次の日は「二番です」。
その次の日、彼女はカードを使わず答えた。
席替え最終日、現代文の先生が難しい質問をした。誰も手を挙げない。彼女のノートには、長い答えが書かれていた。
僕は後ろからカードを一枚差し出した。何も書いていない白いカード。
彼女はそれを見て、首を振った。
ゆっくり手を挙げた。
教室全体が彼女を見た。声は少し震えたが、最後まで答えた。先生は「いい読み方だ」と言った。
放課後、彼女は白いカードを返した。
「もういらない」
「記念に持っとけば」
「次、後ろ引いたら戻るかも」
「交換禁止」
彼女は笑った。
次の席替えで、本当に窓際の最後列を引いた。教室が「念願」と騒いだ。
けれど彼女は交換を申し出た。前から三番目の生徒と。
「後ろ、いいの?」
「景色は好き。でも、黒板に近いほうが声が届くから」
小さな席の移動だった。
彼女にとっては、教室の前方へ進む革命だった。