割れた皿を焼く窯

モジャナは、美しい皿を焼けなかった。

彼女が窯へ入れるのは、表面の歪んだ厚い板ばかり。完成品を載せる窯棚として使われ、客へ売られることはない。陶器組合の売上寄与は7%。組合長は歪みを見て言った。

「売れない皿を焼く薪が惜しい」

モジャナは窯口の灰を払った。歪みは失敗ではない。炎の流れを受けて熱を散らし、上に置いた器へ急な温度差が伝わらない形だった。彼女の窯棚があるから、薄い杯も大皿も同じ窯で割れずに焼けた。

組合長は平らで見栄えのよい輸入棚へ替えた。窯へ並べた姿は整っていた。火が強まると熱が中央へ集まり、器の底に細い亀裂が走った。店頭では見えず、客が湯を注いだ瞬間に割れる。返品と火傷の訴えが組合を埋めた。

名工たちは土の配合を疑った。モジャナの隣で働いていた窯番が、割れた器の下から輸入棚を引き出す。

「名工の器を支えていたのは、売れない皿だった」

組合広間の《焼成因果輪》が赤く回った。器の意匠や名ではなく、無事に完成させた工程へ売上を戻す輪だ。名工の札から火の筋が離れ、歪んだ窯棚の跡へ集まる。割れずに売れた過去の器が、すべてモジャナの仕事へ繋がった。

組合長は顔を赤くした。

「客は窯棚など見ていない!」

輪は炎の文字で答えた。

《見えない支えがなければ、客が見る器も存在しない》

窯番たちは灰置き場から、使い込まれた歪み板を掘り出した。表面には炎の道が幾重にも焼き付き、どの名工の器をどこへ置けばよいか記録されている。モジャナは作品ごとに板の傾きを変え、名工が気づかぬまま失敗を減らしていた。組合長が単なる台だと蹴ると、焼成因果輪は彼の受賞作から光を外した。

モジャナは窯へ戻り、組合長が飾っていた受賞皿を棚から下ろした。その場所へ歪んだ窯棚を置く。名工たちは反発せず、順番に灰の付いた手で触れた。

窯の火は、歪んだ棚の上で今度こそ均等に回った。

返品された器の名工たちは、モジャナの歪んだ棚を窯へ戻して焼き直した。同じ土、同じ釉薬でも、今度は亀裂が生まれない。客は名工の銘だけでなく、窯棚の管理印まで確認して注文するようになった。組合長が受賞歴を掲げ直そうとすると、火傷を負った客がその皿を伏せた。モジャナは平らな棚を作った職人へ、冷却の穏やかな小窯で使える場所を示した。ただし大量焼成の窯では歪みの意味を理解するまで触れさせない。組合長は窯元の席から降ろされ、灰を運びながら炎の流れを学び直した。

《真価確定:モジャナ 実売上寄与93%》

《売上順位:末席→首位/役職:窯棚焼き係→陶器組合窯元長》