十八年目の声

綿引都季の長女・羽里は、生後二週間で亡くなった。

死者回線が始まったとき、都季は最初に羽里の番号を申請した。乳児は話せないはずだったが、回線の向こうの子どもは、亡くなったあとも通話した年数だけ成長するという。

最初の年、聞こえたのは笑い声だった。三年目には舌足らずに「おかあさん」と呼んだ。六年目には幼稚園の話をし、十年目には少し生意気になった。

もちろん、その幼稚園も友達も実在しない。羽里は、都季が尋ねたことを材料に、あり得た人生を育てているだけだった。

それでも都季は毎年、羽里の誕生日を祝った。服を買い、年齢に合う本を読み、学校で流行している言葉を調べた。

その間に生まれた次女・知紘は、姉のためのケーキを一緒に食べて育った。自分の誕生日には写真を何枚撮ってもらっても、翌月の姉の誕生日が来ると、母の関心が見えない席へ移ることを知っていた。十四歳のとき、初めて言った。

「お姉ちゃん、私よりお母さんのこと知ってるね」

都季は否定した。だが羽里との通話では、知紘に言えない不安まで話していた。死者は反抗して家を出たり、母を嫌いになったりしない。毎年同じ日に、必ず待っている。

十八年目、回線の羽里は、落ち着いた若い声になった。

『今年で終わりにして』

「どうして? 成人のお祝いを――」

『私は、お母さんが質問した分しか大きくなってない。好きな人も、失敗も、明日もない』

都季は受話器を握りしめた。

『知紘には、お母さんの知らない一日があるでしょう。そこへ行ってあげて』

「あなたを置いて?」

『私は最初から、ここから動いてないよ』

通話後、都季は用意していた成人祝いの腕時計を箱へ戻した。

その夜、知紘は友人の家へ泊まりに行くと言った。以前なら理由を細かく聞き、危ないと止めただろう。都季は連絡先だけ確認し、送り出した。

玄関が閉まると、不安で胸が苦しくなった。帰ってこないかもしれない。嫌われるかもしれない。生きている子を愛するとは、そういう未来を引き受けることだった。

翌年、羽里の誕生日に電話はしなかった。ケーキも買わなかった。

代わりに、知紘の帰りを待ちながら、二人分の夕飯を温めた。

待つ時間は怖かったが、静かに動いていた。