十年目のカプセル
十七時五十分。取り壊し前の中学校で、長峰周悟と真鍋沙耶は錆びたタイムカプセルを開けた。校門が閉まるまで十分。卒業時に埋め、二十五歳の春に掘り出す予定だったが、工事の延期と感染症の休校が重なり、二十八歳の今日まで延びていた。延期の知らせが来るたび、二人は「まだ大人にならなくていい」と同じ文を送り合った。三年も。
中には、互いへ宛てた封筒が二通あった。あの日、二人は「大人になっても友達なら読もう」と笑った。周悟はその言葉を守るため、恋人ができても沙耶との連絡を切らなかった。沙耶も、別れては戻る友人として隣にいた。
「来月、籍を入れる」と沙耶が言った。
「聞いた。おめでとう」
「その言い方、十年前と同じ」
「友達の祝い方なんて変わらないだろ」
沙耶は自分宛ての封筒を周悟へ渡した。
「帰ってから読もう。ここで読んだら、何か変わりそう」
「もう変わらないよ」
「そうだね」
十七時五十七分。婚約者の車が校門へ着いた。沙耶は周悟宛ての封筒を鞄へ入れ、振り返らずに歩いた。
一人になった教室で、周悟は沙耶からの手紙を開いた。十四歳の丸い字だった。
〈二十五歳でまだ友達なら、周悟に好きって言う。周悟が先に言ったら、二十五歳を待たない〉
裏には、卒業式の日に撮った二人の写真が貼られている。沙耶の視線だけが、カメラではなく周悟を向いていた。
スマートフォンが震えた。沙耶からだった。
〈読んだ。周悟も同じこと書いてた〉
周悟が入れた手紙にも、〈二十五歳になったら友達をやめたい〉と書いてあったらしい。二人とも三年遅れで、互いの予定を知った。
〈今からでも言う?〉と沙耶から続いた。
窓の外では婚約者が車を降り、沙耶のために助手席のドアを開けている。十年待った言葉を、誰かの十年間を壊すために使うことはできなかった。
校門を閉める警備員が呼ぶ。周悟は返信欄の〈好きだった〉を消した。手紙を制服用の古い封筒へ戻し、校舎を出て、門の鍵が掛かる前に外へ出た。