半速の葬列

鳥居塚礼慈は、古い映像を修復するアルバイトをしていた。傷を消し、色を戻し、音を同期させる。今回の素材は、一九七二年に撮られた山村の葬列だった。

依頼票には民俗資料館からの但し書きがあった。

《葬列の映像を〇・五倍速で再生してはいけない》

フィルム缶には「見る者の歩幅で送る」と書かれ、送り先の欄だけ空白だった。通常速度では、棺を担ぐ八人が坂道を下るだけだった。ただし一人だけ足運びが不自然で、毎秒違う位置にいる。礼慈はフレーム欠損を疑い、編集ソフトの速度を一度だけ〇・五倍にした。

音が低く伸びた。担ぎ手たちはゆっくり振り返った。

映像の右下に存在しなかった視聴者一覧が浮かび、再生速度を落とした時刻順に名前が並んだ。八人の顔は、配信を見ている視聴者のアイコンだった。修復作業は社内限定で生配信され、同僚七人と礼慈が接続していた。棺の小窓には、現在の礼慈の顔が映っている。

チャットでは同僚七人が同時に《肩が重い》と書き、順に退出した。再生を止めても、葬列は半分の速さで動き続けた。坂を下り、画面の手前まで来る。棺の中の礼慈だけが普通の速度で瞬きをした。

礼慈はソフトを強制終了し、端末の電源を抜いた。時計を見ると、作業開始から一時間のはずが二時間経っていた。同僚から《どこにいる》《昨日から連絡がない》とメッセージが届く。

会社の防犯カメラでは、礼慈が椅子から立つまでに二時間かかっていた。外へ出る。信号が変わるまでが異様に長い。通行人は礼慈の倍の速さで歩き、声は高く短く聞こえた。礼慈だけが世界から半速にされたのだ。

帰宅して目覚ましを五分後に設定した。鳴ったとき、壁時計は十分進んでいた。

スマホの健康アプリが一日のまとめを表示する。

【歩行速度:通常の〇・五倍】

【推定到着日:明後日】

目的地:葬列

カレンダーには、礼慈が入力していない予定があった。

【本日 通夜】

【明日 告別式】

【明後日 到着】

最下段で、棺の絵文字が少しずつ現在時刻へ近づいていた。