友人の最後の買い物

野々瀬充希は帰宅すると、死んだ友人・克一の人格と対戦ゲームを一試合する。

『また同じ罠にかかったな』

「お前が死んでから強くなりすぎなんだよ」

『暇だからな』

二人で作った共同口座から、月額利用料とゲーム代が落ちる。購入履歴には、克一が死んだ日から一日も空白がなかった。充希はそれを、友人が続いている証拠だと思っていた。口座に生前登録された死者人格は、残高がある限り決済できる。約束した相手だけが、死後も趣味を続けさせられる仕組みだった。

充希は悪く思っていなかった。克一の葬儀で「アカウントは俺が守る」と言ったのは自分だ。

給料日の夜、一試合を終えると高額決済の通知が来た。

《永久人格稼働権 百八十万円》

共同口座だけで足りず、連携された充希の貯金も使われていた。来月払うはずの車の頭金まで消えている。

「何買ってんだよ」

『更新が来た。今のプラン、来週で終わるって』

「相談しろよ」

『相談したら、払わないだろ』

決済は有効だった。共同口座で一度でも死者の購入を承認すると、以後の同種商品も本人判断に任される。最初の月額契約で、充希は同意していた。

「返金しろ」

『返金したら俺が止まる』

「百八十万だぞ」

『お前の車と、俺の残り全部。どっちが高い?』

充希は言葉を失った。

克一は事故の前日、欲しかった車の写真を送りつけてきた。二人で同じ車を買い、海へ行く予定だった。充希が頭金を貯めていたのも、その約束のためだ。

『海、画面越しでも行けるだろ』

「助手席に座れないくせに」

『だから消えていいって?』

返金期限は三分。ボタンを押せば金は戻り、克一の人格は即時停止する。

充希は指を置いたまま、押せなかった。

期限が過ぎる。

《購入を確定しました》

克一が笑う。

『ありがとな。やっぱ親友だ』

翌朝、車の予約取消通知が届いた。キャンセル料を引いた残金は、共同口座へ戻る。

すぐに克一が新しいゲームを買った。

『これ、二人用らしいぞ』

充希の端末には、永久に切れない招待通知が点滅していた。