台座が一つ多い
彫刻家の塔ノ沢泰成が、十九体の白い像の中から消えた。
個展の最終日、塔ノ沢は売買契約を拒み、展示室へ一人で籠もった。画廊主の蟹江美登里、助手の黒江悠玄、収集家の久宝理砂が入口を見張った。窓のない展示室には、等身大の石膏像が並んでいた。
閉館後、運送業者が作品を一体ずつ白布で包み、台車で搬出した。三人は塔ノ沢が奥の制作区画にいると思い、作業を止めなかった。すべて運び出した午後八時、制作区画を開けると誰もいない。入口以外に出口はなく、運送業者も「人間は出ていない」と証言した。
助手は誘拐を疑った。画廊主は「像は台帳どおり十八体だった」と言い張った。
私は空の床を見て、三つの残り方を比べた。
塔ノ沢の作品は、目を閉じた人間を同じ姿勢で立たせた連作だった。運送員は白布を掛け、番号札だけで作品を区別した。顔を確かめる工程がないなら、生身の一人を石膏の列へ足すことは、思うほど奇抜ではない。
第一に、台帳上の作品は十八体なのに、床の埃には正方形の台座跡が十九個あった。
第二に、搬出前の写真で最後尾の像だけ、首筋の白い塗料が乾ききらず、照明を鈍く反射していた。
第三に、その像の足裏から落ちた泥は、固定展示の像には付かない新しい街路の砂を含んでいた。
久宝が写真を拡大し、喉を鳴らした。
「先生自身が、像になった?」
「石膏ではありません。舞台用の白いボディーペイントと、軽い殻です。息を止める必要もなく、白布を掛けられた後は台車に立っていればいい」
黒江は台帳にない十九番目の梱包札を作り、塔ノ沢を作品として搬出させた。像は十八体だという画廊主の思い込みが、十九人目を数から消したのである。契約原本を持った塔ノ沢は、そのまま弁護士事務所へ運ばれた。
台座跡、乾かない塗料、街路の泥。すべて一体だけが歩いてきたことを示す。
私は空の展示室に十九番目の札を置いた。
「人が像に化けたのではありません。皆さんが、人間を最初から作品として数えたんです」