呪いを脱いだ床板
宮廷書庫の司書ベアトは、禁書の呪いを一身に受けた。
以来、真夏でも骨まで寒い。王は褒美として、誰も欲しがらない「熱すぎる温泉付きの土地」を与え、書庫から遠ざけた。
土地の湯小屋は傾いていた。湯は豊かだが、床板が腐り、踏めば足が抜ける。
「今日は一列だけ」
ベアトは本を分類するときと同じように、直す範囲を決めた。
壁際の五枚を剥がし、乾いた栗材を同じ長さに切る。
禁書を閉じたとき、王は「書庫を守るのは司書の役目だ」とだけ言った。治療師も休暇も与えられず、次の本を整理させられた。ならばここでは、まず自分が安全に歩ける場所を作る。五枚すべて直せなくても、一列あれば湯へ行き、戻って食事を取れる。暮らしはその幅から始められる。呪いで指が震えるたび、源泉の上へ手をかざして温めた。釘を打つ音は、書庫の静けさとは正反対だった。
こん。こん。こん。
五枚目を固定し、その上に立つ。栗材はまだ新しく、淡い木の香りがした。腐った床の冷たさとは違い、釘頭まで温泉の熱を受けてほのかに温かい。
床は沈まない。板の下を温泉の熱が通り、裸足の裏へじわりと上がってきた。冷え切っていた足指に、久しく忘れていた痛いほどの温かさが戻る。
腕に絡んでいた黒い呪文の一節が、ぱきりと剥がれ、灰になった。
全部ではない。それでも一行ぶん、呪いが消えた。
ベアトは新しい床板へ座り、炉で焼いた硬いチーズを黒パンに載せた。縁が溶け、脂がぱちぱちと音を立てる。かじれば塩気と香ばしさが広がった。
王の使者が、失われた禁書の所在を尋ねる勅書を持ってきた。
「書庫が混乱しています。陛下は直ちに戻れと」
ベアトは金の封蝋に触れた。指はもう震えていない。
「その本は北壁三段目、左から七冊目です」
「では、ご一緒に」
「場所を教えれば足りるでしょう」
勅書を開かず、新しい床板の端へ置く。
ベアトは湯へ足を下ろし、残りのパンを食べた。今夜読むのは王命ではない。自分の体に戻ってきた、温かいという一行だった。