命の利息

根占史成が借りたのは、現金百万円だった。

返済できなければ寿命で払う契約だった。利息は月三日。最初は安いと思った。三日なら、眠って過ぎる週末より短い。

会社を解雇され、返済が遅れると、三日は六日になった。延滞利息にも利息がつき、三年で一年と四十七日になった。

取り立て人は暴力を使わなかった。毎月、史成の予測死亡日を更新し、丁寧に読み上げるだけだった。

「今月お支払いがなければ、六十八歳四月から、六十六歳一月になります」

未来のカレンダーが少しずつ破られていく。

妻の依子は、家計を立て直そうと夜勤を始めた。史成も仕事を掛け持ちした。二人は顔を合わせなくなった。

ある朝、依子が倒れた。過労だった。

史成は取り立て人へ電話し、自分の残りをまとめて売ると言った。借金を消し、妻の治療費も払える。予測では、あと十七年売れる。

「一括清算ですね。死亡は今夜零時の予定です」

端末へ署名しかけたとき、依子が病室から電話をよこした。

「死んだら離婚するから」

「死んでるのに?」

「だから困るでしょう。私を借金の受取人にするな」

依子は、町の〈時間信用組合〉を見つけていた。組合員が一日ずつ無利息で出し合い、高利の寿命債務を買い取る制度だ。金ではなく時間を共同で守るため、返済は地域の仕事で行う。

史成の借金には、四百十二人が一日ずつ出した。

知らない人々の一年と四十七日で、命の利息は止まった。

史成は毎週、組合の配達、草刈り、子どもの送迎をした。返済表には金額ではなく、〈誰かの一日を軽くする仕事〉と書かれた。

十年後、取り立て会社は規制され、寿命利息は禁止された。史成の元本返済も終わった。

組合は解散できたが、誰もやめなかった。今度は病気の人や介護者へ、一日単位の休暇を融通する仕組みに変わった。

史成は、自分が失いかけた十七年を誰かに返すことはできない。代わりに、月三日だけ組合の仕事を続けた。

かつて命を削った利息と同じ三日だった。

ただし今度の三日は、未来を減らすのではなく、誰かが明日まで持ちこたえるために使われた。