嘘の裏地を表へ返す

王妃の処刑衣を仕立てたのは、老裁縫師セレムだった。

毒殺未遂の罪を着せられた王妃は、広場の断頭台で黙っている。宰相ドルガンは証人を三人並べ、王妃が毒瓶を隠すところを見たと宣誓させた。

「仕立屋は衣だけ見ていろ」

セレムが証言の食い違いを指摘すると、宰相は彼の老眼鏡を踏み砕いた。

長年使ってきた技能は、上等な外套の裏地を見せるためのものだった。

【固有スキル《裏返し仕立て》:表地と裏地の位置を入れ替え、内側に隠れた面を外へ出す】

処刑の鐘が鳴る。

王妃の無実を信じる民衆も、証拠を覆せずうつむいた。三人の証言は魔法契約で「真実」と認定され、嘘を言えば舌が焼けるはずだった。宰相はその絶対性を盾に、反論する者を反逆者として次々と連行させていた。

だがセレムには、証人たちの言葉に裏地が見えた。

表には「王妃を見た」。内側には「宰相に言わされた」。

契約が判定しているのは口から出た面だけで、隠した意図までは縛っていない。

宰相が合図し、刃が持ち上がる。

セレムは処刑衣の裾から一本の黒糸を抜いた。それは証言契約と同じ魔獣の腱で作られている。

糸を三人の声へ絡め、一息に裏返した。

「私は王妃が毒瓶を隠すところを見た」

最初の証人の言葉が反転する。

「私は宰相が毒瓶を王妃の部屋へ置くところを見た」

続く二人も、隠していた面を自分の声で語り始めた。

最後に宰相の命令が裏返る。

「王妃の首を刎ねろ」は、「毒を用意した私を捕らえろ」へ変わった。

衛兵たちは魔法契約に従い、断頭台ではなく宰相を取り囲む。民衆の沈黙が、そこで初めて歓声へ裏返った。

処刑衣も裏返り、内側へセレムが縫っておいた王家の白百合が陽光の下へ現れた。それは有罪者の黒衣ではなく、潔白を示す戴冠衣だった。

王妃が断頭台を降り、踏まれた老眼鏡を拾ってセレムへ返す。

彼がそれを掛け直したとき、広場の誰も仕立屋へ黙れとは言わなかった。

【職業《宮廷仕立屋》が上位職《真相翻衣師》へ書き換わりました】