地面から離れた黄金穂

収穫祭の三日前、平原へ季節外れの雨が来た。

 刈り終えた麦は地面に積まれ、六百束が水を吸っていた。このままでは熱を持ち、祭までに酸っぱくなる。穀物商は「濡れ麦は半値」と買いたたき、農家の借金証文を準備していた。

 稲架葉月は、畑の脇へ長い木組みを立てた。

 二本の脚を交差させ、横木を渡し、麦束を穂先が重ならないよう掛ける。地面から腰の高さまで離し、束と束の間に拳一つの隙間を空けた。

「雨に濡れた麦を風に晒せば、また雨を呼ぶ」

 穀物商バルザは笑い、残りの麦を従来どおり大きな山へ積ませた。

 葉月は木組みへ掛けた百束と、地積み百束を同じ重さにそろえた。上には簡単な草屋根だけをかけ、三日待つ。

 一日目、地積みの中心へ手を入れると熱かった。二日目には、甘酸っぱい臭いと白い黴が出た。木組みの麦は風に揺れ、束の内側まで冷たい。

 三日目、両方を秤へ載せる。

 木組み百束は初日より十八斤軽くなっていた。穂の水分が抜けた分だ。地積みはわずか五斤しか減らず、下側には泥水を吸って重くなった束もある。

 製粉人が粒を歯で割った。木組みの麦は乾いた音を立て、中まで白い。地積みの麦は潰れ、指に湿った粉が付く。試しに一升ずつ挽くと、木組みから取れた粉は七合、地積みは黴と泥を除いて四合だった。

 乾いた粒は袋へ入れて揺すっても固い音を保ち、翌朝まで熱を持たなかった。地積みの袋は夜のうちに内側が汗をかき、口を開くと白い息と酸臭が漏れた。倉へ積める状態かどうかも、祭を待たず分かった。

「上等な束だけ選んだのだ」

 バルザが木組みを倒そうとした。葉月は束の縄を見せる。青、赤、黄の三色で、農家ごとに無作為に分けた印が残っている。選別の余地はない。

 祭のパン職人は黄金色の粉を握り、半値の札を麦山へ投げ返した。

「乾燥架の麦は全量、平年価格で買う。来年分も六百束予約する」

 村長は借金証文を火へ入れ、葉月へ共同乾燥場の鍵を渡した。