壁の四角い日焼け
蓮美の部屋の壁には、四角い色の差が残っていた。
元恋人との写真を大きく印刷し、三年間飾っていた跡だ。額を外すと、周りだけが日焼けし、そこにまだ写真があるように見える。
内装の仕事をする景都は、壁一面を塗るべきだと言った。
「この四角だけでいい」
「部分補修は色が合わない」
「全部変えるのは大げさ」
「大げさじゃなく、施工の問題」
蓮美は跡を隠したいだけだった。景都は、やるなら仕上がりを優先する。失恋への態度ではなく、仕事の基準でぶつかった。
床に養生シートを敷き、コンセントのカバーを外す。蓮美はローラーを早く動かし、景都は端から一定の速度で塗れと注意した。
「失敗しても私の壁」
「賃貸の壁」
「退去するとき戻せばいい」
「だから記録写真を撮る」
景都は塗る前の壁を撮影し、塗料の型番を紙に書いた。
一度目では四角が透けた。蓮美はもう十分だと言ったが、景都は乾燥時間を計った。二人は窓辺で四十分待つ。恋人の話はしなかった。景都は刷毛を洗い、蓮美は外した額から写真を抜き、紙袋へ入れた。
「捨てないの?」
「写真まで白くする必要はない」
景都は、それ以上聞かなかった。
二度目は二人でローラーを持った。蓮美が上、景都が下。境目ができないよう、塗料が乾く前に重ねる。
「右」
「分かってる」
「速い」
「景都が遅い」
口では合わなくても、ローラーの往復は次第に同じ間隔になった。
塗料が一滴、蓮美の靴下へ落ちた。景都は専用の布を投げ、蓮美は自分で叩いて落とした。誰かに汚されたものではないので、その染みには腹が立たなかった。
夕方、壁は一色になった。写真の跡はどこにあったか、近づいても分からない。
景都は道具を片づけ、蓮美はコンセントのカバーを戻した。最後のねじが斜めに入ると、景都が黙ってドライバーを差し出す。
蓮美は自分で締め直した。
家具を元へ戻すと、壁には何も掛けなかった。
景都は空白が間延びすると言い、蓮美はしばらくこのままがいいと言った。
二人は納得しないまま、養生シートの四隅を持った。塗料の粉をこぼさないよう中央へ折り、同じ白い壁の前から運び出した。