大丈夫を消す

可奈子は「元気?」と聞かれると、「大丈夫」と返した。

元恋人が、弱っている彼女を嫌ったからだ。

「毎日の細かいことまで聞かされると重い。自分で処理してから話して」

付き合っていた頃、可奈子はつらい出来事を要点だけにし、最後には必ず「でも平気」と付けた。別れてからは、友人に対しても同じだった。助けてほしいわけではない、と先に証明しなければ、話す資格がない気がした。

火曜の午後、病院で再検査を告げられた。深刻なものではない可能性が高いと医師は言ったが、結果が出るまで二週間ある。

帰宅すると、大学時代の友人から「最近どう?」とメッセージが来ていた。

可奈子は「大丈夫だよ」と打った。

親指を送信ボタンへ置く。いつもなら、その一言で会話を終わらせる。

可奈子は「大丈夫」を消した。

代わりに、今日再検査になったこと、たぶん心配しすぎだと思うこと、それでも一人で夕飯を食べる気になれないことを書いた。最後に「駅前で蕎麦を食べない?」と足した。

文章は四つの吹き出しに分かれた。重いと思われないよう、冗談のスタンプを添えたくなったが、送らなかった。

返事を待つ数分が長かった。可奈子は「急に重い話してごめん」と追加し、さらに「無理なら全然いい」と書いた。二つとも送らずに消した。断る余地は、友人自身が持っている。自分を先に小さくして、その余地を作ったふりをしなくてもいいはずだと思った。

数分後、友人から駅前の地図と「十九時なら」の一文が届いた。

励ましも、大丈夫という保証もなかった。

可奈子は待ち合わせへ向かう途中、何度も送った文を読み返したくなった。余計なことを言った箇所を探し、あとから謝りたかった。

スマホを鞄の内ポケットへ入れた。

蕎麦屋で何を話すかは決めていない。検査の話をして、すぐ別の話題へ移るかもしれない。沈黙するかもしれない。

改札前で友人を待ちながら、可奈子は胸の不安を消そうとしなかった。

ただ、その日の「元気?」には、大丈夫ではない自分のまま返事をした。