夫が提出した無編集映像

地方検察庁の聴取室で、刑事の俊路は妻である検事・依吹へ薄い笑みを向けた。

「千景と深夜の証拠保管室にいたのは捜査のためだ。浮気を疑って夫を取り調べるなんて、検事失格だな」

証拠係の千景も、二人きりだったことは認めながら「抱き合って見えたのは被疑者役の再現」と説明した。俊路は彼女を庇う一方、依吹が見た状況を記録した捜査メモだけは《夫婦喧嘩》として廃棄するよう要求していた。俊路は離婚届を依吹の前へ滑らせる。

「署名しろ。今後この件を口にしない誓約書もだ。拒めば、おまえが職権で夫を監視したと告発する」

依吹が黙っていると、俊路は胸のカメラを机へ置いた。

「私が潔白だという映像を提出する。無編集だ。これ以上の証拠はない」

彼は自分で再生ボタンを押した。胸のカメラは警察支給品で、映像へ時刻、位置、機器番号が透かしとして刻まれる。俊路はその信頼性を利用し、妻の告発を虚偽だと確定させるつもりだった。

映像には、午前零時の証拠保管室が映る。俊路と千景は書類棚の陰で口づけし、互いを名前で呼び合っていた。

『依吹には夜勤と言ったの?』

『ああ。離婚後はこの部屋の記録も消す。ついでに、押収品の時計を売った責任をあいつへ被せよう』

千景が笑い、俊路の制服から結婚指輪を抜いて棚へ放る。

俊路は映像を止めようとした。しかし無編集証明を得るため、彼自身が再生中の操作を禁止する証拠保全モードにしていた。

さらに映像は続く。二人が押収品を別箱へ移し、依吹の職員番号を書いた偽の受領票を貼る場面。その後、カメラの赤灯に気づいた俊路の声。

『大丈夫だ。映像は俺が提出するまで誰も見ない』

「違う、これは訓練だ!」

叫びも映像と同時に記録された。

依吹は誓約書を裏返し、離婚届にだけ署名した。夫を罠にかけたのではない。彼が自分で撮り、自分で無編集と保証し、自分で提出したのだ。

聴取室の扉が開き、監察官が令状を掲げた。

「俊路巡査部長および証拠係・千景に対する、証拠品横領と虚偽記録作成による逮捕命令を読み上げる」