姫一人分の国境

「魔法の代価を誰が払っているかしか見えない鑑定士など、宮廷には不要だ」

祭司長ロシュトはトレヴィンを結界院から追放した。

【負担鑑定:持続中の魔法が消費している生命・魔力の負担者を表示する】

結界の強度も破り方も分からない。代価は術者が払うのが常識で、見るまでもないとされた。

その夜、国境結界が激しく輝いた。

魔王軍の侵攻を防いだ一方、十二歳の王女ミアネが寝台で血を吐いた。結界が敵の一撃を受けるたび、小さな胸にも青い亀裂が浮かぶ。王女は生まれつき病弱だとされ、祭司長は「戦の恐怖が原因」と診断した。だが眠っているはずの指は、城壁の明滅に合わせて握りしめられていた。

追放のため宮殿を出ようとしていたトレヴィンは、王女の脈と結界の明滅が同じ速さだと気づいた。

城壁の礎石へ触れる。

――負担者:ミアネ・イスカーナ。

国を覆う結界を、一人の少女の命が支えていた。

「あり得ぬ!」

祭司長は叫ぶ。結界は王家全員の魔力を均等に使う契約だという。だが女王イスカーナは、幼い娘が五年前、再起動式の礎石へ最初に触れたことを思い出した。

『わたしが、みんなを守る』

子供の言葉を、古代結界は正式な誓約として受け取っていたのだ。

トレヴィンは女王を礎石へ導いた。

「魔法は今も、最初の約束を守っています。新しい負担者が、より強い言葉で引き受ければいい」

祭司長は危険だと止めた。女王は冠を外し、娘の寝台脇へ置く。

「王である私が、民も娘も守る。代価は私の魔力から取れ」

礎石が鳴った。

トレヴィンが再び鑑定する。

――負担者:イスカーナ、および王冠に誓う十二名。

女王だけでなく、居並ぶ騎士と魔術師が次々に王冠へ手を置いた。負担は分かれ、王女の呼吸が穏やかになる。城壁の光は、むしろ以前より強くなった。

祭司長が追放命令を隠そうとする。イスカーナはそれを取り上げ、娘の血を拭った布とともに火へくべた。

「この国の境は石ではなかった。一人の子の覚悟だったのだな」

女王はトレヴィンへ結界院の長杖を差し出す。

「今後、国が誰か一人に重すぎぬか、そなたが最初に見張れ」