密輸品はよく鳴く
木星軌道港の税関で、銀色の輸送箱を三人が囲んでいた。
銀河マフィアの運び屋、ゾルバ・ケイン。
税関警察官のイラ・セドナ。
貨物泥棒のミオラ・フェン。
箱には《生体貨物・開封厳禁・低温維持》とある。中から、ぴい、と小さな音がした。
「鳴くとは聞いていない」とゾルバ。
「密輸品に聴覚が?」とイラ。
「高く売れるなら、鳴き声は気にしない」とミオラ。
三人は互いを買い手、監視役、運搬係だと思い込んだ。
イラが端末を向ける。
「申告内容は乾燥海藻。生体反応が出ています」
「書類の誤差だ」とゾルバ。
「海藻が呼吸することもある」とミオラ。
「少なくとも鳴きません」
箱の中で、ぴい、ぴい、と声が増える。
ゾルバは汗を拭いた。
「酸素はどれくらいもつ」
「六時間」とミオラ。
「なぜ知っている」
「箱を運ぶ仕事もするから」
「正規業者ですか」
「正規という言葉の範囲による」
イラの疑いが深まる。
「中身の価値は?」
「一億クレジット」とゾルバ。
「私には三千万と」とミオラ。
「価格が違う」
「手数料だ」
「誰の?」
「言えない」
箱が大きく揺れた。
イラは封印を切ろうとする。
「安全確認のため開けます」
「だめだ。光へ当てるな」とゾルバ。
「暴れたら傷がつく」とミオラ。
「危険生物ですか」
「宝石だ」とゾルバ。
「宝石は暴れません」
「最近の宝石は活発だ」
「そんな進化は報告されていません」
ミオラが箱を台車ごと奪おうとし、ゾルバが止め、イラが二人を拘束しようとする。三人でもつれた拍子に、留め金が外れた。
ふたの隙間から、白黒の小さな頭が一つ、二つ、七つとのぞく。
「ぴい!」
動物園職員のクルス博士が駆け込んだ。
「私のペンギンの雛! 貨物番号を取り違えています!」
隣の台車には《乾燥海藻》と書かれた同型の箱があり、内部から宝石探知機の警報が鳴っていた。
イラはゾルバとミオラへ磁気手錠をかける。
ゾルバは雛を見てつぶやいた。
「一億より、こちらのほうが扱いにくそうだ」
七羽が同時に鳴いた。
「ぴい!」
その点だけは、全員が同意した。