射撃場の白い杭
失踪した高校生の自転車は、県警射撃場の裏門で見つかった。
それから十七年。施設改修に伴う地中探査で、用度課の岩代瑛太は、弾止め土塁の下に人の骨格に似た反応を捉えた。立会人は射撃場長の狛江崎巌。当時、夜間警備を担当した現職警官だった。
「廃材だ。昔は動物の骨も埋めた」
狛江崎は探査画面を閉じようとした。
瑛太は位置を確認した。反応の真上だけ、土の層が逆転している。事件翌週に土塁を補修した記録があり、工事責任者の印は狛江崎だった。
「高校生は、ここで何を見たんです」
「知らん」
「失踪当夜、射撃許可はゼロ。でも排水溝から実包の雷管が十八個出ています」
狛江崎の頬が引きつった。
当時、県警幹部が私的な射撃会を開き、押収拳銃を試していた。高校生は近道で裏門を通り、発砲を目撃した。追い払おうとした警官ともみ合い、土塁から転落したという。
「事故だった」と狛江崎は言った。「救急車を呼ぼうとした。だが副本部長が止めた。押収拳銃の横流しが発覚すると」
「遺体を埋めた」
「私は土を運んだだけだ」
現在の県警本部長室には、その射撃会にいた者が二人いる。高校生の母は毎年、裏門に新しい自転車のベルを供えていた。今朝も柵の向こうで、小さな銀色が雨に濡れている。掘削を命じれば、用度課の入札不正まで報復的に調べられ、瑛太の部下も巻き込まれる。改修工事は一時間後に始まり、土塁は新しい盛土で覆われる予定だった。
狛江崎は白い測量杭を抜き、瑛太へ差し出した。
「反応なしと記録しろ。骨でなければ、お前の首が飛ぶ。骨でも同じだ」
瑛太は杭を受け取った。先端には古い土が付いている。
彼は探査地点へ戻り、杭を地面へ打った。白い側面に「発掘停止・人骨疑い」と赤字で書き、職員証を読み取り機へかざす。電子地図上で杭が証拠標識へ変わり、工事停止警報が鳴った。探査画像と工事責任者印も、同時に監察保全領域へ複製された。
狛江崎が無線を奪おうと走る。
瑛太はもう一本の杭を、逃げ道を塞ぐように土塁の入口へ打ち込んだ。