射的の白い景品

不動産屋の机で鍵束を置いたとき、佳南の白い鳥のキーホルダーが小さく鳴った。

片方の翼が欠けた、安っぽいプラスチックの鳥。十年前の射的の景品だった。

高校の夏祭りで、佳南は弓道部の先輩、凪と二人で射的屋台に立った。

棚の最上段に白い鳥を見つけたが、「別に欲しくない」と言った。失敗するところを凪に見られたくなかったのだ。

凪は一発目で外し、二発目で隣のガムを落とし、最後の一発で鳥の台座を撃ち抜いた。

「欲しかったんじゃないんですか」

佳南が聞くと、凪は景品を差し出した。

「佳南が見てたから」

「見てません」

「じゃあ返して」

反射的に胸へ抱えると、凪が笑った。

花火が始まるまで、二人は川辺を歩いた。佳南は凪に憧れていた。弓を引く姿にも、誰にでも率直なところにも。好きという言葉がどの種類なのか、自分でも分からなかった。

「先輩は、欲しいものすぐ言えていいですね」

佳南がこぼすと、凪は少し考えた。

「言う前は毎回怖いよ」

「そう見えない」

「見せてないから」

凪は白い鳥の翼を指で押した。

「次は自分で指さしな。取れるかどうかは、そのあと」

佳南はその夜、何も告げなかった。凪は卒業し、遠くの大学へ進んだ。白い鳥だけが、学生鞄から社員証ケース、家の鍵へと移ってきた。

二十七歳の佳南は今、結婚を前提に住む部屋を探している。候補の二部屋は条件が似ていた。恋人は駅に近い方を勧め、不動産屋も「普通はこちら」と言う。

けれど佳南が本当に好きなのは、駅から遠くても朝日が入る部屋だった。仕事用の小さな机を窓際に置ける。

以前なら、どちらでもいいと答えていた。

佳南は欠けた白い翼を親指でなぞり、間取り図の一方を指さした。

「私は、こっちに住みたいです」

恋人は少し驚いたあと、「じゃあ、こっちをもう一度見よう」と言った。

鳥を自分で撃ち落とせたわけではない。けれど欲しい場所を指さすことはできた。

内見へ向かう廊下で、白い鳥が鍵束の先を揺れた。借り物の勇気ではなくなった音がした。