差出人は下駄箱係

毎朝、下駄箱に短い手紙が入るようになった。

『今日は傘を忘れないで』

『英語の小テスト、三ページ目も範囲』

『前髪、切りすぎではない』

最後の一文だけは余計だった。

差出人は『下駄箱係』。そんな係はない。

最初はラブレターだと友人たちに騒がれた。けれど内容は生活指導のようで、甘さがない。字にも見覚えがなかった。

一週間目の金曜日、手紙にこう書かれていた。

『昼休み、音楽室の前へ来てください。仲直りの相談があります』

音楽室の前には誰もいなかった。代わりに、床へもう一通落ちていた。

『やっぱり直接は無理です。ごめんなさい』

その書き方で、ようやく分かった。

一か月前に喧嘩した友人だった。

文化祭の係を押しつけた、押しつけていないで言い合いになり、互いに謝る機会を逃した。彼女は字を変えるため、慣れない左手で書いていたのだ。

放課後、私は彼女の下駄箱へ手紙を入れた。

『下駄箱係へ。相談は手紙でも受け付けます』

翌朝、返事があった。

『文化祭のとき、ごめんなさい。忙しいのを分かっていたのに、自分だけ大変だと思いました』

私はその日の放課後に書いた。

『私もごめん。頼まれていないことまで勝手にやって、感謝されないと怒りました』

手紙の往復は三日続いた。

教室では話さないまま、下駄箱の中だけで謝った。顔を合わせると意地が出るのに、紙の上では素直になれた。

四日目の朝、手紙はなかった。

代わりに彼女が下駄箱の前に立っていた。

「今日、傘いらないよ」

窓の外は晴れていた。

「小テストもない」

「前髪は?」

「まだ切りすぎ」

私は笑った。彼女も笑った。

教室まで並んで歩いたが、何を話せばいいか分からず、最初は天気のことばかり話した。それでも沈黙は、喧嘩のあとのものではなくなっていた。

最後の手紙は、私の机の中に入っていた。

『下駄箱係は本日で廃止します。友達に戻れたので』

私は裏へ、『再設置の予定なし』と書き足した。

前髪が伸びるころには、手紙を使わなくても謝れるようになっていた。