広い足で立つ救護院
戦地の仮設救護院は、負傷兵を入れる前から傾いていた。沼地に立てた細い柱が沈み、床の片側は膝一つぶん低い。軍の棟梁は、柱をもっと深く打てばよいと言った。
前世で地盤改良の設計をしていたカナードは、同じ長さの柱を二本用意した。一方はそのまま、もう一方の下には幅広い木板を十字に組んだ。
「深さではなく、重さを受ける面積を増やします」
二本を湿った地面へ立て、同じ重さの砂袋を五十個ずつ載せる。
細い柱は十袋目から沈み、五十袋で二十センチ潜った。
広い底板を付けた柱は、五十袋でも二センチ。水面に置いた板のように、荷重を広く分けていた。
棟梁は黙り込んだ。
カナードは全柱の下へ同じ広い基礎板を入れた。柱を増やしたのではない。足を広げただけだ。半日後、傾いていた床は水平に戻り、水を入れた皿をどこへ置いてもこぼれない。
夕方、担架百二十床を並べ、兵士二百人が一斉に入った。床は沈まず、手術台の器具も転がらない。従来案より木材は二割少なく、深い杭を打つ時間がなくなったため、開院は二日前倒しになった。
軍医長は最初の負傷兵を寝台へ運び込み、棟梁へではなくカナードへ鍵を渡した。
「前線沿いに救護院を六棟増やす命令が来た」
軍の棟梁は、深い杭を打つため大型槌と兵士五十人を要求していた。沼へ一日打っても底に届かず、負傷兵は雨の中で待っている。カナードの広い底板なら、近くの森の短材だけで作れた。
夜半に雨が降り、地面はさらに軟らかくなった。翌朝、細い試験柱は傾いて砂袋を落としていたが、広い基礎板の柱は水たまりの中で垂直を保つ。救護院へ入れた百二十床のうち、脚の高さを調整した寝台は一つもない。軍医は手術中、転がりやすい銀針を台の端へ置いた。三十分後も同じ場所にあり、床が動いていないことを誰の目にも示した。
深い杭用に集められていた兵士たちは、浮いた半日で屋根と寝台を完成させた。
司令官が契約書へ軍印を押す。
「すべてこの広い足で建てろ。お前を工兵隊の基礎設計主任に任命する」